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未来の予感<愛情こめて作ります>番外 

兄とその恋人の話。

すらりと伸びた形の良い足がミニのワンピースから除く。短い髪の気の強さの押し出された中々の美人だ。
人待ち顔で駅前のカフェに腰を下ろすと、周囲からちらちらと視線が投げ掛けられる。
その前に乱暴な仕草で珈琲の入った紙コップが二つ置かれた。
美女の前に腰を下ろしたのは、すらりとした細身のスーツを着こなす男だ。明らかに不愉快といわんばかりにテーブルを指先で叩く。とても美人を前にしているとは思えない態度だ。
「もう、その態度止めて」
女は頭が痛いと言わんばかりに額を押さえ、首を振る。それに男は秀麗な顔を歪めた。
「だって。今日、さゆちゃん帰って来ないんだよ。あーもう、さゆちゃんが穢れる!」
美人と美男の会話だとは思えない突拍子のない声と気の抜けた内容だ。
「いい加減にしろ! このブラコン!」
美人が男の頭をはたく。正直この男のブラコン振りは会った当初から知ってはいるのだが。
「さゆちゃんだって、恋人が出来れば外泊くらいします。第一、あの二人付き合って十年近くたってるでしょ!」
「だって、蓉子。さゆちゃんだよ、可愛い俺のさゆちゃんに」
蓉子と呼ばれた女が男へ投げつけた視線は絶対零度だ。
「私、今からあなたの部屋へ泊まりに行くんですが」
じとっとした視線を受けた男が漸く冷静に戻る。蓉子と男は恋人同士だ。しかも婚約もして結婚も視野に入れている。当然、部屋へ泊まるというのはそういうことも意図している。しかも、ブラコン男が同居している『さゆちゃん』は本日は恋人の家にお泊りだ。
「貴方と私がしていることを弟には許しませんというのは違いませんか? どうでしょう、衛雪さん?」
多少、嫌味を含んだ物言いになるのは仕方がないと思ってほしい。しかも、話題の弟は立派な体格の大学生男子である。いくら両親が亡くなり、弟と二人きりの家族でもいい加減に自立して欲しいものだ。
幸いにして蓉子の知る『さゆちゃん』は、性格は穏やかで控えめないい子である。大学生の男に向って、いくら年下だからといってもいい子というのはどうかと思うが、何処か子供子供したところが抜けず、口調も年よりも幾分か幼い。
でも。と蓉子は正面に座る男のこちらを伺うような顔を見て思う。
男はどこから見ても完璧だった。容姿は整っており、軽薄なところは無く、仕事もそこそこ出来る。そんな男にしっかりと小学生時分から『可愛いさゆちゃん』と囲い込まれれば、年相応に育つ筈もない。
しかも、恋人までもがそれをいいことに尻馬にのって囲い込みをやってしまったのだから。
「そろそろさゆちゃんから自立してくださらないかしら?」
「でも、蓉子」
反論しようと顔を上げた衛雪の顔が引き締まった。それどころではない。急がなければ。
「蓉子、逃げるぞ」
「そういうの、何ていうか知ってる?」
衛雪の顔を見た瞬間、何が起こったのかは押して知るべし。蓉子は恋人に手を引かれるままに走り出した。
「盛大なブーメランだな」
衛雪は意外とオタクな友人の言葉を借りて応える。確かにうなずける言葉だなとせまり来る脅威から逃げ出しつつ考えた。

衛雪が弟と同居するマンションは、両親の遺産管財人である弁護士と相談の上で購入したものだ。小学生の弟と高校生になったばかりの兄弟には、遺産に群がる親戚を追いはらうには両親と過ごした一軒家は隙があり過ぎた。
きちんと玄関にポーチがあり、そこを通り過ぎなければ部屋へはいくことが出来ない。一階二階は外壁側ではなく、廊下側に窓があるという変形的な造りだ。住人の安全に配慮しつつも、比較的に小規模な物件は安価で手に入った。
だが、そこも。
「美味しい。さすがさゆちゃんね」
「もちろん。さゆちゃんのご飯は最高に決まってるよ」
衛雪と蓉子が落ち着いたのは、マンションのドアを閉めてからだ。ハイヒールで衛雪に負けずに走れる蓉子、恐るべし。衛雪も不思議に思い、一度蓉子に突っ込んだのだが、会社帰りにスレたプチ家出の弟探して走り回ってたからねーとあっさりと躱された。弟がやんちゃしていた反抗期を過ぎ、今度は適齢期になった姉の心配を始めてしまったのは、ご愛嬌である。
危ない目にあってないか、変なやつに目をつけられてはいないか。残業や飲み会には当然の如く迎えにあらわれる弟に、付いたあだ名はセコムだ。
「ふーくんもさゆちゃんのご飯美味しいって言ってたしね」
「うん。俺の所為だからな」
ちょっとだけ落ち込んだ風情を見せる衛雪の頭をそっと蓉子は抱きしめる。
結婚に反対していた蓉子のセコム・芙来が衛雪に対する評価を変えたのは、顔合わせの会食後だ。人柄を表すような優しい食卓。控えめな弟を可愛がっている兄。
何よりもその家庭的な味にノックアウトされたと言ってもいい。
でも、それを構成した経緯については衛雪のコンプレックスだ。佐雪にそこまで気を使わせていたことと、その好意を素直に受け止めすぎていたことを。
しかも、それがさゆに恋人が出来るまで解らなかった自分にも。
「じゃあ、荒れないの。さゆちゃんを育てたのは自分だけじゃないの、知ってるでしょう」
「解ってるよ。さゆちゃんがあんなに健気に頑張れたのは美弥が傍にいたからだって」
でも、面白くない。と呟いて衛雪はすがる様に蓉子の肩口に頭を擦り付ける。解っているのだ。佐雪にも蓉子にも、果ては美弥にまで甘えている自分を。
「解るよ。ふーくんが反抗期だったとき、ふーにかまけることが出来たのって、両親がいたからだもの。でも、衛雪には誰もいなかったんだもんね。まず、生活のためにいい会社に勤めなきゃって頑張って来たのは衛雪でしょ。残された最後の家族を守れるのは衛雪だけ」
だから、少しくらいは心が狭くなるのは仕方がない。が、しかし。
蓉子のハンドバッグの中でスマホが震えている。
「あ、ふーくんからメールだ」
「あいつ態とやってるだろ」
衛雪が呆れた声を上げた。その額を蓉子がつつく。
「当たり前でしょ。自分がさゆちゃんにしてること、見てみなさい」
「はい。すみません」
ハンドバッグからスマホを取り出す蓉子の言葉に、衛雪は素直に頭を下げた。二人で顔を見合わせてくすくすと笑う。これから増えていく家族を思い、衛雪はふっと心が軽くなるのを感じた。
「二世帯住宅も悪くないかな」
自分たち夫婦と、さゆと美弥。一緒に暮らす家はどうだろうか。いつか自分たちに子供が出来て、芙来にも恋人が出来るだろう。
キッチンに立つさゆと美弥の背中を穏やかな気分で見られそうな、そんな予感のする。そんな夜。

<おわり>

最後の話は蛇足的なものですが、これからちょっとはさゆちゃんの周囲は平穏になるんじゃないでしょうか。

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あとがきというか蛇足。
今回の話は、残念な兄&恋人を書きたくてはじめました。もっとさゆちゃんが振り回される感じにしたかったのですが、あまりハードルを上げすぎると、それを許せるかということになりそうなので、止めました。
ちょっと変な衛雪ですが、柚木も中身は一緒です。さゆちゃんに対しては可笑しな人たち。単にやりすぎて嫌われている衛雪を反面教師にして何とか踏みとどまっています。
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