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人生の相棒<傭兵と吟遊詩人> 

初夏イベントより配布していた無配SSです。
傭兵と吟遊詩人、本編はこちら

【人生の相棒】

「おい、着いたぞ」
俺の肩に頭を乗せ掛けて眠るフォゼラを起こす。まだ意識がはっきりとしないのか、ぶるりと頭を振った。
街道馬車から降りる足元も酔っているかのように危なっかしい。俺が支えると、素直に身体を預けてきた。その身体が熱を帯びているのに気付き、俺はフォゼラを広場の脇に座らせる。
「今、宿を見つけてくるから待ってろ」
「すまん」
俺に応える声も掠れていた。どうやら、本当にヤバい状態のようだ。
幸い小さいがそれなりに小奇麗な酒場が見つかり、フォゼラを担ぎ込む。女将さんが気の利いた人であったらしく、俺が何かを言う前に医者が駆けつけてきた。

「疲労だな。しばらくの間、寝かせておけ」
痩せぎすの顔色の悪い医者が、ぶっきらぼうに言い放つ。
「心当たりがあるだろう。薬湯は置いていく。一日二回。朝と寝る前だ」
医者が睨む。もちろん心当たりはあった。神妙にうなずく俺の前に薬湯の袋が差し出される。
「銀貨一枚だ」
法外な金額に、俺は思わず馬鹿面晒して医者を見た。
「何だ。払えねぇ金額じゃねぇだろ。剣も靴も身なりもそれなりに整ってる。金がなきゃ出来ねえ造りだ」
「命守るもんだからな」
剣はもちろんのこと、靴も服も、軽くて丈夫で身体に負担を掛けずに動きやすいものでなければ戦えない。
「ところが貧乏人たちはそんなものでも金は掛けられないんだ。金持ってるだろ? 出しな」
医者の口調はどこかのならず者のようだが、持たないものからはそれなりにしか取らず、持っている奴からは巻き上げるということかと、俺は納得して銀貨を差し出した。
「五日は動かすな。具合が悪そうならいつでも呼べ」
にやりと食えない笑みを残して立ち去った医者に、俺はやれやれと天を振り仰いだ。金が惜しい訳ではないが、痛い出費であることは確かだ。
だが、自業自得だということも判っている。俺はみじろぎもせず、眠り続けるフォゼラの髪をそっと梳いた。

傭兵としての仕事は着実に減っていた。まぁ、当たり前だ。他に金を得る手段はあるのだから、気の乗らない仕事を嫌々引き受ける必要は無い。
俺の腕が確実に必要となるような小戦闘ばかりを請け負っていたし、前回もそうだった訳だ。
機動力に任せ、次から次へと将の首を刈り取る。しかも、背後にはがっちりと俺の背中を任せられるフォゼラがいる。
調子に乗った俺はその日一番の功績を上げ、他の傭兵連中が野営をする中、俺たちだけが部屋を与えられた。久しぶりの小戦闘で滾った血が収まらない。そんな中、フォゼラと二人。部屋ですることといったら決まっている。
丸一日以上の交戦状態なんざ初めてのフォゼラを抱き潰せば、疲労困憊になるのも当たり前だろう。街道馬車でもずっと俺の肩を枕に眠っていた。
「ヴェルハ」
声を上げたフォゼラを覗き込むと、血の気の抜けた顔が俺を見あげる。
「倒れたのか、俺は。情けないな」
「すまん。調子に乗り過ぎた」
起き上がろうとするフォゼラをベッドへ押さえつけながら、頭を下げた。反応がまったくない。呆れたのかと頭を下げたまま考えていると、フォゼラの指が俺に触れる。
「まったく、お前は」
呆れたような調子の声ではあったが、怒気は感じられない。恐る恐るフォゼラを見ると、笑っていた。
「お前を制止しなかった俺にも罪はあるさ。お互いにああいう時はヤバいな」
薄い笑いはちょっと艶めいている。誘ってるのかこの野郎と考えて、俺はハッとなった。これは罰なのだ。手を出したくても出せない状況で、態と隙を見せる。これで俺が手を出せば、きっと手痛いしっぺ返しが来る筈だ。
「人が悪いぞ」
「そういう男を選んだのはお前だ。諦めろ」
フォゼラにチクリと刺されて、俺は諸手を上げて降参する。これ以上、ここにいても碌なことにはならない。俺はさっさと出掛けることにした。
酒場の女将に、部屋へ食事を運んでくれるように頼み、五日分の宿賃を渡す。俺たちのような素性のはっきりしない人間は、小さな酒場兼食事処の借宿で前払いが基本だ。
斡旋所へ出掛けるかどうか迷ったのは一瞬だ。短期の傭兵仕事は、護衛が主だ。商隊の馬車か商人の屋敷かだろう。フォゼラを宿に預けたままの泊まり仕事は有難くない。病人を宿に置いたまま、行方をくらましたと見られても仕方が無いからだ。
俺の足は自然と広場へと向いていた。

何処も街の造りは似ている。入り口を抜けたところにある大広場には市が立ち、様々な行商人が荷を並べ、賑わいを当てにした芸人たちが様々な芸を披露する。
俺は一人でそこへ立った。
常に隣にいた三弦を奏でるフォゼラはいない。正直、度胸試しのような感じが拭えなかった。
『お前は俺の最高の歌い手で、相棒だ』
そういったフォゼラの言葉を胸に、俺はすっと息を吸い込む。と、隣で弦の音がした。見た事の無い楽器だ。
流民の持つ、そりのある剣のようなものに弦が張られ、指先に付けた鉄の爪がそれをはじく。軽く不思議な音色だった。
ヴェルハはじっとその音に聞き惚れる。幻想的な音色だが、地味である所為か足を止めるものは少なかった。
二曲弾き終えても、投げ込まれる銅貨はあまり無い。ヴェルハはちょっと悩んだ後に十枚程の銅貨を投げ込んだ。
不思議な顔をして目を上げる男は黒い髪に褐色の肌。どうやら、流民らしい。
「あの、旦那。こんなによろしいので?」
「もっと稼ぎたくないか」
俺が正面から見下ろすと、男の目つきがたちまち不審なものに変わった。まぁ、当たり前か。得体の知れない男にいきなりそんなことを持ちかけられれば、胡散臭さが先に立つ。
「何、一曲弾いてくれればいいだけだ。戦陣は弾けるか」
戦陣というのは出陣の前に奏でていたらしい昔の曲だ。やはり、初めての場所では皆が聞きなれている古い曲の方が受けはいい。
「どうだ?」
「弾くだけなんだな」
重ねて問う俺に、男の胡散臭げな視線は相変わらずだ。だが、銅貨十枚の威力はそれなりにあったらしい。男は座りなおすと、楽器を爪弾きはじめた。
俺は同時に長剣を抜き放つ寸前で、止める。旋律とぴたりと止めた俺のポーズに、人の目が集まり始めた。
すらりとそのまま剣を抜く。早い剣舞はフォゼラの仕込だ。実践に即した大きな動きと早さは、俺の戦闘を身近で見ているフォゼラならではだ。
男と目が合うと驚いた視線が俺の動きを追っていた。手を止めないのはプロ根性だ。俺はニヤリと男に笑い掛けた。
舞い終わると、周り中から喝采を浴びる。フォゼラの真似をして、俺は優雅に頭を垂れた。男の前に置かれた銅杯はたちまちのうちに一杯になる。
男は信じられないといった視線で、俺と銅杯を交互に眺めていた。
「五・五だ。悪く無いだろう」
俺が手を出すと、男はぽかんとした顔で俺を眺める。
「半分も。いいのか?」
「その代わり、後四日付き合え」
俺の提案に、男は何度もうなずいた。

「弧絢(こげん)とは珍しい、流民だったか」
「弧絢」
芸人小屋育ちのフォゼラは、楽器の名を知っていた。
「流民がよく使う。あの中に剣が仕込まれているんだ。守り刀って奴だな」
「成る程。丸腰で流れの芸人とは珍しいと思った」
身を守る術を持たずに旅をするのは無謀に近い。大きな都市間を行き来する街道馬車でさえ襲われるときがあるのだ。
「とりあえず、後四日はあいつと競演だな」
「そうか」
芸人としてフォゼラと共にいるようになって、未だ数年。正直、怖さが先に立つ。俺にはフォゼラ程の如才の無さも、芸人としての腕も無い。だが、俺の成長を喜んでくれると思っていたフォゼラの返事が鈍い。
「フォゼラ。具合悪いか」
「ああ。すまん、そろそろ休む」
疲れているのだろう。顔色が悪い。俺はフォゼラの隣に潜り込み、体調が悪い所為か少し冷たい身体を背後から抱きしめた。
「ヴェルハ?」
「このまま寝かせてくれ」
困惑する声を上げたフォゼラに、俺は甘えるように目を閉じた。

「ほらよ。半分」
半分差し出される銅貨を受け取る。皮袋ごと懐に捻じ込むと、男が名残惜しげに声を掛けてきた。
「なぁ、俺とこれからも組まないか。もっと大きな街へ行けば、稼げるぜ」
「悪いが、断る」
どうやら思ったより稼げることに味をしめたらしいが、俺としてはフォゼラの薬代を捻出するための一時的なものだ。すげなく断って、仮の宿である酒場へと向う。二階へ上がると、旅支度を終えたフォゼラがいた。
「もう大丈夫そうだな」
「ああ。心配掛けた」
一箇所への長逗留は俺たちのような流れ者は歓迎されない。病人が全快すれば出ていくのが後腐れがないのだ。
二人して連れ立って歩くのも久しぶりだ。
「ヴェルハ。この街、客の反応はどうだった?」
「ノリはいい。一曲演ってから行くか」
広場を通りかかると、どうしてもソワソワするのは、もはや芸人としての性かもしれない。フォゼラが三弦を取り出した。
無骨な指が繊細で力強い音色を奏でだす。俺は息を吸い、空を見上げた。
歌うのは俺自身の歌だ。フォゼラが俺のために作ってくれた俺の歌。俺自身の生き様を歌いあげる。
恋歌。季節歌。労働歌。フォゼラの紡ぐ旋律のままに、歌い続ける。絡み合う声と旋律。俺の望むそのひととき。
歌い終えると、割れんばかりの拍手が周囲から沸き起こり、フォゼラの持った木杯があっという間に一杯になる。
「客の反応が新鮮だな」
「舞ばかりで歌ってないからな。お前の三弦がやっぱり最高だ」
「おだてるな」
笑いあいながら馬車の待合へと向っていると、ぽかんとした顔をして俺たちの方を見ている流民の男がいる。俺はニヤリと笑ってフォゼラを促す。俺の最高の楽士であり、俺の人生の相棒を。

<おわり>
まぁ、ちょっと嫉妬するフォゼラなんか書きたかったんですが、基本ヴェルハが解ってないのですれ違いのまま。

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