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百華楼<水の魔方陣・焔の剣>番外 

あら、旅のお方ですの。ティアンナ一の娼楼だなんて、言い過ぎですよ。そりゃ、ウチは身分のある方も多くいらっしゃいますから、キチンとした姑を置いてはおりますけれど。まぁ、品がいいだなんてお客様はお上手ですこと。
あら、あの方はウチの姑じゃございません。お客様ですよ。可愛らしいですが怖いお方ですから、お気を付けあそばせ。まぁ、お目が宜しいこと。そう紫紺の瞳は魔術師の証ですわ。
お気に入った姑がいらしたら、ぜひお口説きなさいまし。ここは王都の花街・百華楼。仮初の恋に身を浸す場所ですわ。
たまさかに本当の恋も生まれますけれど、ね。

【百華楼】

「触るな、エロ魔術師!」
大声で叫んだ男が、シッシッとまるで野良犬を払うような仕草で相手を追い払う。それに相手が情けない声を上げた。
「ベルゼ。そりゃないじゃねぇか」
粗野な言葉使いの似合わない、長い銀髪の美しい男だ。瞳は魔術師の持つ、独特の紫紺。蒼の名を持つ魔術師である。
「お前だって、気持ちよかっただろう」
振り払われてもめげずに、蒼はベルゼの耳元へすばやく顔を寄せて囁いた。大抵の女ならば確実に落ちるであろう美声を響かせた囁きも、ベルゼには悪寒しかもたらさない。
ぶんと拳を背後に振り上げるが、それをすいっとかわされて、より一層イラつきが増した。
ベルゼがギリッと歯を噛み締めて、蒼を睨みつける。大柄で逞しい肉体を誇るベルゼが、剣の柄に手を置いて睨みつけるさまは、周囲の通行人を大いに怯えさせた。
「おお、怖ッ」
だが、睨みつけられた当の蒼は、さして怯えも見せずにしれっと流すだけである。
「とにかく失せろ。俺は仕事だ」
「いけずだな。家で待ってるぜ。旦那様」
ぶちりと理性の切れた音が周囲にも伝わると、潮を引いたように大通りから人の姿が消えた。バタバタとあちこちで扉が閉じる音が響く。
無言で剣を抜いたベルゼの振り向きざまの一閃を、蒼はひらりと飛んでかわすと、そのまま駆け去った。
「またな」
「二度と顔見せんな!」
言葉は爽やかだが、奇妙に邪悪な笑い声が往来に響き渡る。後姿に上げたベルゼの怒鳴り声は、単なる負け惜しみにしか聞こえなかった。

「あら、ベルゼ。疲れきっているわね」
顔馴染みの娼姑が思わずと言った声を上げる。百華楼に顔を出したとき、ベルゼは本気で疲れていた。
ベルゼはこの花街の用心棒のようなものだ。元傭兵であるが、ティアンナに流れ着いたところで、たまたま街中での諍いを実力で黙らせ、花街の用心棒の話を持ちかけられたのだ。
傭兵は、年を取るに連れて仕事の内容が変化する。三十路も過ぎたあたりで持ちかけられたこの話は、ベルゼにとっても渡りに船であったのだ。
「何か、今日はくだらねぇ争いごとが多くてな。しかも、やけに楯突くやつも多くてよ。ちょいと疲れちまった」
「あら。少し、休んでいく?」
娼姑はすっと冷たい酒をベルゼに差し出すと、ベルゼの横へと腰を下ろした。
「いや、それはいい。暁、来てねぇか」
「暁さまなら、ここ数日は来てらっしゃらないわ。女将さんなら知っているんじゃないかしら」
暁と言う魔術師は、この楼主の馴染みだ。ちょっと見はおとなしやかな少女のようだが、中々どうして豪胆で、腕の程はベルゼも一目置いている。
「おや、ベルゼ。客でもない癖に、ウチの売れっ姑を独り占めたぁ、いい度胸じゃないか」
黒髪の女が奥から顔を出した。楼主のミュエルは年増独特の妖艶な色気のある女だ。胸元を大きく開いた衣装と長くたらしたまま、結い上げていない髪もそれに拍車を掛けている。ベルゼもこんな際でなければ、目の保養と洒落込むところだが、そんな気力も尽きていた。
「悪かったな」
楼主に頭を下げるベルゼを見て、娼姑は席を立ち、男たちの元へと戻っていく。
「ベルゼ、往来での夫婦漫才。今日も派手だったそうだねぇ」
楼主の口元に意地の悪い笑いが浮かんだ。
「誰が夫婦だ!」
どうやら、往来での大喧嘩はここまで聞こえているらしい。ベルゼは疲れた身体が更に重くなるのを感じた。
「もういい。暁に会いたいんだが、何処にいけばいい?」
頭を抱えてがっくりと肩を落としたベルゼに、これは本当に疲れているらしいと楼主は笑いを引っ込める。
「暁さまなら、第一騎士団の塔か、王宮の魔術師の宮じゃないの」
「は?」
ベルゼはがばりと顔を上げて、楼主を見た。楼主はその反応に、冷ややかな目でベルゼを見下ろす。
「知らなかったのかい? あんだけ一緒に管巻いといて。暁さまは王宮魔術師だよ。第一騎士団の首級守護魔術師」
楼主の言葉にベルゼは横っ面を引っ叩かれた。王宮のお抱え魔術師。しかも魔物退治を旨とする第一騎士団の首級の守護魔術師とは、第一線で戦う魔術師の中でも一番の力を持つという意味ではないか。
「強い、訳だ」
呆然と呟くベルゼに、呆れた楼主は足音も荒く奥へと引っ込んだ。

周囲の大国に囲まれたこのティアンナが一応、独立した国としての体裁を保っていられるのは、黒の森と呼ばれる魔物たちの住む森を国境に抱えている故である。
この森を押さえ込むことこそ、この国の存在意義であり、故に魔術師たちは多くの呪をその身の中に持つ。瞳の色は紫紺。時折、その色を持たぬままの魔術師がいるが、数は少ない。
「ベルゼ。お帰り~~~」
扉を開けた瞬間にがばりと抱きつこうとした男を、ベルゼは危ういところでかわした。
「ひでぇな。ベルゼの為に美味い料理と酒を用意したのに」
口元を押さえてうな垂れる蒼に、既に何度も騙されたベルゼだ。そうそう何度もしてやられる筈もない。
「嘘付け。その後に俺を食うためだろうが」
振り下ろされるベルゼの剣を、蒼は調理に使っていたらしい短刀で受け止めた。この男は細身に似合わない馬鹿力だ。力比べでは負けが見えている。
ベルゼはふっと身体の力を抜き、下から押し返す剣を上手く流した。そのまま、上に跳ね上がった蒼の身体に横合いから剣を叩き込む。
だが、それはニヤリと笑った蒼にかわされた。
背後から忍び寄った魔術師が、ベルゼの耳元で何事かを囁く。呪言。魔術師しか唱えられることのない音だ。
途端、ベルゼの身体は何かに縛られたように自由が利かなくなる。
「ちきしょう。お前、昼間の」
往来でやりあった時に、耳元で囁かれた睦言は、魔術の発動の切っ掛けの呪だったのだ。
「悪いな。今日は時間が惜しい」
動けなくなったベルゼを、蒼は丸太でも担ぐように肩に乗せると、そのままベッドへと転がした。
「どうせ動けねぇんだ。お前も楽しめよ」
圧し掛かり耳たぶをぺろりと舐められる。歯を食いしばるが、そんな抵抗が何時まで持つか。男相手は蒼が初めてと言う訳でもないが、さすがにこんなに逞しい身になってまで男を受け入れさせられるとは思わなかった。
しかも相手はやたらと手馴れていて、ベルゼの逞しい身体を苦にもしていない。
「くっそ、この馬鹿、あッ」
口を開けば、罵声は力がなく、快楽を示す声が漏れそうになる。楽しそうにベルゼにエロいことを仕掛ける魔術師に、ベルゼが言える負け惜しみは一つだけだ。
「このエロ魔術師ッ、覚えてろ!」
「もちろん。覚えているさ。お前の感じる顔、好みだぜ」
最後の抵抗も空しく、好き放題にされる。蒼は耳元で嬉しげに囁いた。
「好きだ。ベルゼ」
「物好きめ」
あまりの真摯なそれに、つい絆されてしまう自分もどうかと思いつつ、ベルゼは理性を手放した。

「ベルゼ。明日からしばらく出掛けるからな。いい子で待ってな」
朝まで貪られて力の抜け切ったベルゼに反して、蒼はご機嫌で身支度をしている。珍しく魔術師の正装であるローブを羽織ってはいるが、その下には騎士服のようなもの着込んでいた。しかも、腰には細身の長剣を佩いている。
「何だ、珍しいな」
「惚れ直したか」
「惚れてねぇ」
ニヤリと振り返る蒼に、ベルゼは即答した。強引に関係を持たれて数ヶ月。ベルゼが花街に出掛ける際にまとわり付いてくるこの男に振り回され、ベルゼとしてはイラつくばかりだ。
「二度と帰ってくるな。すっきりする」
「そうか」
ごろりと背中を向けて転がるベルゼに対して、妙に沈んだ声が返る。だが、ベルゼは振り向かなかった。どうせ、蒼のことだ。沈んだふりで強引に口付けを奪うくらいのことはやる。そうそう引っかかってたまるかとベルゼは身構えたが、背後でパタリと扉の閉まる音が響いた。
「え?」
起き上がって振り返ると、そこには誰もいない。まるで最初から誰もいなかったかのような感覚に、ベルゼは何か釈然としないものを感じていた。

「第一騎士団だ」
「今度は何処だ?」
「ベルゴルスだとよ」
往来を駆け抜ける騎馬の群れを人々が見送る。周囲を大国に囲まれ均衡の取れ過ぎたティアンナでは、戦闘といえば辺境における魔物退治だ。
ベルゼもその騎馬を見送っていたが、その中に見知った顔を見つけて近づいた。
少女のような細身の身体と、肩の上で切り揃えられた赤茶の髪。騎士服の上に羽織った魔術師のローブ。
「暁!」
「ベルゼ!」
緩く走る騎馬と併走する男を認め、暁は馬を寄せる。だが、馬の足は留まることは無い。
「生きて帰って来いよ」
傭兵であった頃、幾度か魔物と対峙した事のあるベルゼは、思わず声を上げていた。
「当たり前です。百華楼、頼みます!」
それきり前を向いた暁に掛ける言葉は無い。ベルゼはその場に立ち尽くし、騎馬の群れが過ぎ去るのを眺めるのみだ。
「大丈夫だ。俺が付いている」
背後から掛かった聞き覚えのありすぎる声にベルゼは振り向く。そこにいたのは馬に騎乗したまま、ベルゼを見下ろす蒼だ。
「お前も行くのか」
「ああ。お前も聞いているだろう。『焔の剣』が新たな主を選んだことを」
『焔の剣』。魔封じの力を持つという伝説の剣が新たな主を選んだらしいと王都中で噂になっていた。そんなものには無縁な花街でも話題になるぐらいだ。
「久しぶりに引っ張り出された。あれと逢ったのは俺とヤコニールだけだからな」
「ヤコニール?」
「暁の名だ。今度逢ったら呼んでやれ。お前ならばいいと言うだろう」
騎馬の群れが過ぎつつある。馬の腹を軽く蒼が蹴った。走り始める騎馬に、ベルゼは声を上げる。
「蒼!」
初めて呼び掛けた。無事に帰ってくる。そう信じて。

この間まで、手こずっていたのが嘘のように、奇妙に花街は静かになった。
「何かすっきりしない」
「何、辛気臭い顔してんのよ」
呟くベルゼに声を掛けたのはミュエルだ。今日も艶やかな黒髪をたらしたままの姿である。
花街を巡回して歩くのが毎日のベルゼの仕事だ。安い楼ほど騒ぎが起き易いのは何処も同じで、故に最後の百華楼には顔を出す程度である。
「この間まで妙に逆らっていた連中が、急にこそこそ逃げやがる」
「ああ。あんたと蒼さまの夫婦漫才見て、あんな優男にやられる様なら軽いとか考えたんでしょうよ。実際、戦場なんか知らない奴らだもの」
ミュエルは非常に辛らつだ。今までも、ああやって戦場へ行く暁を見送って来たことがそう言わせるのだろう。
暁も蒼も、傭兵であるベルゼを向こうに回しても引けを取らない強さだ。だが、おとなしやかな風情や美しい面に騙される連中は多いと言うことらしい。
「だが、何故だ?」
「あんた、第一騎士団の出撃見送りに行ったでしょう」
別に見送りに行った訳ではないが、実質そうなってしまった。ベルゼは渋々とうなずく。
眉根を寄せたミュエルの顔が、大輪の華が綻ぶように微笑んだ。もうミュエルはベルゼなど見てはいない。
「暁さま」
「久しぶり」
ベルゼが振り向くと、そこには少女のように可愛らしい面差しの少年が立っていた。
「ヤコニール?」
「そう、暁のヤコニール。それが私の名です。貴方に教えたのは蒼のソルフェースですか?」
にっこりと暁が微笑む。
「蒼のソルフェースってのが、エロ魔術師の名前か」
「貴方に掛かっては形無しですね、あの方も」
肩を竦めた暁が苦笑いを浮かべた。その瞬間、ベルゼは何故か背後に悪寒を感じて、振り向きざまに剣を払う。
「ひでぇな。ベルゼ。もうちょっと熱烈な歓迎が欲しい所だな。『無事に帰って来たんだな。愛してるぜ』とか」
「寒いことを抜かすな。何時お前と愛し合った」
受け止めた蒼の剣とベルゼの剣。どちらも譲らず、睨み合いが続く。
「何時って、出撃の前の晩もだろう。俺の下で喘い」
「ぶっ殺す!」
ベルゼが力任せに振り切った。が、蒼はギリギリで避ける。
「ベルゼッ!」
楼主の怒り狂った声が響き、ベルゼは恐る恐る振り返った。
「いい加減におし! あんたが暴れてどうすんだい! 壊したら弁償してもらうよ!」
美しい眉を上げた顔は魔物もかくやという風情で、ベルゼはしっかりと口を閉じる。こんな顔の女の前で、うかつな発言など以ての外だ。
「うぶな生娘でもあるまいし、何恥ずかしがってんだい。あんたが蒼さまと寝てんのなんか花街中が知ってるよ」
いや、そこは知っていても知らないフリをしてほしいなんて事は絶対に言ってはいけない。ベルゼは口を引き結んだ。
「蒼さまも、いい加減にしちゃあどうなんです? この男が舐められない為に、今回正体を明かされたんでしょうに」
正体を明かす? 何の事だ? 言い掛けて、ベルゼは青くなった。暁が呼んだ蒼の名は何と言った。
「蒼の、ソルフェース?」
伝説の『焔の剣の騎士』リベア・コントラを守護した、王宮最強最大の魔術師。
「まさか」
「そのまさかだよ。ここ何十年も表舞台から退いておられたんだ。ベルゼ、お前のようなチンピラ傭兵の顔を立てる為に、出て来なさったのさ」
ベルゼの顔から血の気が引く。剣を立てて、何とか身を支えた。
「楼主。お前、昔逢ったか」
「蒼さま。もうウチには二百年越しでお通いですよ。絵姿も残してございます」
蒼の問い掛けに、がっくりとミュエルが肩を落とす。毒気を抜かれたのか、いつも通りの妖艶なミュエルに戻っていた。
「もういいですよ。さっさとそこのデカイ癖に乙女な男を引き取って帰ってくださいな。うっとうしい」
ミュエルがひらひらと手を振るさまは、何処が野良犬を追い払うのに似ている。それに声を上げて、暁が笑った。
茫然自失としたベルゼが、我に返ったのは、農家の納屋の二階にあるベルゼの自室でのこと。
既に脱がされ準備は万端。遠慮なく圧し掛かる蒼を蹴り飛ばそうとして、見事に避けられる。
「何、誘ってくれてんのか」
「な、訳あるか! エロ魔術師!」
夫婦漫才は結局がとこ、昼夜問わないようで、王都名物になったとかならないとか。
まあ、そういうことで。

<おわり>

ソルとベルゼのその後の話。
ちょっと後続けるかも。今、すごくアホな話が書きたい気分なんです。
続いたら、水の魔方陣からは独立シリーズにします。主役リベアじゃないしね。
一年前の無配。宝探し企画用の書き下ろしでした。

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