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Working Dandy<1> 

パチンコ屋の店員は、可愛いOBに夢中で。

<2> <3> <4>完 <5>番外編 
<トリックオアトリート>09年ハロウィン企画


「おい、玉が出ねーぞ」
ジャラジャラ云う玉の流れる音と、それぞれの機種の上げる効果音のやかましい店内を、黒のスラックスと白い細身のドレスシャツに蝶ネクタイのホール係が走り回る。
駅前のパチンコ店『マイスターホール』では、日常的な風景だ。
そんな中、その男のだみ声はいつも以上に不機嫌そうにあたりに響き渡る。
ともかく、このオヤジは店員が最も嫌う、うるさいタイプの客だった。
自分の腕を棚に上げ、玉が出ないとごね、隣の客にたかる。かといって、派手に遊ぶタイプでも無く、当たったからといって、それをホールに落としていくわけでも無い。
そうは云っても、一応は客なので、無視をかます訳にもいかない。そういう場合に、一番割りを食うのは、このホールで一番使えないと評判の男?有働だった。
先輩店員が、無言で顎をしゃくって行けと指示する。
背だけが抜きん出て高い有働は、似合わないと自覚のある制服の蝶ネクタイを神経質に直すと、情けなさそうな引きつった笑みを浮かべて、オヤジの傍らに立つ。
「お客様。何かございましたでしょうか?」
おずおずと研修で教わったとおりの台詞を述べた。こういう所が、何年経っても、有働が使えないとされている所以で、TPOに合わせることが出来ないのだ。
「何があったかって、見りゃ判んだろーかよ!」
案の定、オヤジはより一層怒鳴りだし、先輩店員もホールを流すワゴン販売の売り子のお姉さんも見てみぬ振りだ。
「玉が出ねーんだよ! 何か?ここの店は裏で操作でもしてんのか? この回転数で出ねー訳がねーだろ?」
「あの、でもそれはタイミングもありますし……」
首をすくめて長身を縮こまらせた有働は、もっとも云ってはいけない台詞を云ってしまった。タイミングをはずしたのはお前の腕の所為だと、湾曲に云ってしまったも同様だ。
「なんだと!」
激昂したオヤジが有働の首に巻かれた蝶ネクタイを掴み、椅子まで引き摺り下ろした、ちょうどその時、のんびりとした声が後ろから掛かる。
「何だよ。オッサン、また出ねーのか?」
「ハルちゃん。いや、そうなんだよ~」
振り向いた場所には、おそろいの青灰色の作業服の上下を着た男たちが数人立っていた。
近くの製紙工場で働くクレーンマン達だ。その中の小柄で可愛い顔の男が、にやにや笑って二人を見下ろしている。
「玉、廻してやろうか?」
「悪いな。頼むぜ」
ハルちゃんと呼ばれた小柄な男が、玉を廻すと云うのを聞いて、すっかり機嫌を直したらしいオヤジは、にこにこと笑って、パチンコ台の前に座りなおした。
ハルは、作業服のポケットから、一万円札を無造作にパチンコ玉の販売機に入れ、半分以上をオヤジの台に掴み入れる。
オヤジはさっきまでの剣幕はどこへやら、パチンコ台から流れる必殺仕事人のテーマソングに合わせて、下手糞なハミングを口ずさみ始めた。
「おい、ウド! コーヒー買って来い。人数分だ。2階のエヴァんトコだぞ」
今度は倒れている有働に声を掛け、ハルは数枚の札を差し出す。有働は飛び上がって立ち上がり、自動販売機へ走って行った。

「まったく、お前はいつもの手じゃないか。ハルさんがどれだけ迷惑してると思う? いい加減にしろよ!」
先輩店員の一人が自動販売機の前で、嫌味を云ってきた。有働は長身をすくめてしゅんとなってしまう。
あのオヤジはいつも、ああやって誰かに難癖をつけ、見かねた常連客が玉を廻してくるのを待っているのだ。それが判っているから、他の客にからむ前にホール係りが飛んでいくのだが、その当のホール係りをかばうのに、常連が損をしているのでは、本末転倒だ。
判ってはいるのだが、口下手な有働にはどうしようも無い。かといって、誰もかばってはくれないのだから、いつも損な役回りだった。
「いい。行け。ハルさんたち待ってるぞ」
「はい」
しゅんとしたまま、数本のコーヒーを抱えた有働が階段を昇る。
すると、上から警報音が流れてきた。誰かが確変かリーチ目でも引き当てたのだろう。
一列づつ、青灰色の作業服を探す。
「ハルさんからです。どうぞ」
云いながら渡していくと、作業服のオッサンたちは、みんな気のいい人たちで、人好きのする笑顔で、タバコを咥えた口の端から、礼を云われた。
残すは一本だけだが、肝心のハルの小柄な姿が見当たらない。
一番奥の列を覗くと、そこにやっとハルがいた。客商売である以上、やはり、店の入り口や、二階の窓際の目立つ位置に、出る台を置くのが鉄則だ。奥の台など、余程満員でないと人はいない。ところが、ハルはいつもそこに陣取っていた。
「春香先輩。コーヒーです」
邪魔にならないように、慎重に台に缶コーヒーを置く。
そう、有働の高校大学を通しての部活のOBがハルだ。そして、未だに頭が上がらない相手でもある。
「おう! ちょっと、待っとけ」
振り返りもせずに云う春香の口も、くわえタバコのままだ。しかも、吸っているのは両切りのピース。
昔から、小柄で可愛い容姿の割には、オッサンくさいところのあった春香だが、大学を卒業して工場に勤めだしてからは、ますますオッサン度が増している。
作業服の袖を捲くり、春香はじっと台の玉の動きを追っている。警報音が流れているのは、春香の座った台だ。それが突然軽快な音楽に替わる。さすがのぼけぼけした有働も、毎日耳にするその曲のタイトルは知っていた。
『魂のルフラン』――――大当たりである。
「ほらな」
にやりと春香が笑う。はっとした有働が、マイクへ走り寄った。
「235番台。大当たりです」
春香が店に入って、まだ十五分がいいところだ。
「おいおい、またハルさんか?」
「あの人、店つぶす気かよ」
上機嫌の春香は、台に合わせて綺麗なテノールで魂のルフランを歌い続けている。
わらわらと下から店員が上がってきた。その中には、ワゴン販売の売り子の姿も見受けられる。
「あ、喜美ちゃん。一箱、下でコーヒーでも振舞って」
「は~い。ハルさん」
店内をワゴンで流す売り子からは、飲み物や食べ物が玉と交換出来る様になっているが、当然、勝っている客ほど散財してくれる。売り子はそれぞれの当り台を求めてうろうろする訳だ。
特に、春香は大当たりを引き当てると、他の客にも振舞うのが恒例となっていて、心得た売り子たちは、春香が当たると真っ先に駆けつける。今日も喜美子は、満面の笑顔で一箱抱えてワゴンへと戻っていった。

「おい。ウド」
ひとしきり遊んだ後に、春香が有働に声を掛ける。
「お前、今日早番だろう。付き合え」
くいっと猪口を飲み干す真似をする春香の手は、二箱ほど玉の入った箱を抱えていた。
稼ぎすぎないのが長く続けるコツ。だそうで、トントンくらいで止めるのがいいとは春香の言葉である。
しかも、大当たりしたら何割かは店で落とすと云う、パチンコ店に取っては大変にありがたい客だった。
只でさえ、体育会では先輩の言葉は絶対。OBは神様だ。その頭の上がらないOBに卒業後も世話をしてもらって、更に毎回仕事で助けてもらっている。しかも、相手は店の上客だ。
断る自由など、有働には無かったし、それ以上に、有働は春香と一緒にいられる機会を逃す気など無い。
「はい! もちろん」
最敬礼で春香を見送って、引継ぎを終えると、速攻で着替えて、店の外へと飛びだした。


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