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仮初の守護者<1> 

花街の用心棒・ベルゼは流されるままに友人と寝てしまう。
冗談だと流していた友人の言葉が真摯なものであることを知り。
プロローグ【百華楼】はこちら

【仮初の守護者】

「やっちまった」
目が覚めた時点で、ベルゼの口をついたのはそんな本音だ。
確かに酔っていた。双方ともにへべれけだったのは認めよう。このところつるむ様になった魔術師たちは、整った顔に見合わぬ豪胆さと豪快さを持ち合わせた人物で、仕事明けに呑みに行くことも通常であった。
だから、そのうちの一人が納屋の二階にある自室へと訪ねて来たときも、心良く招きいれ、手土産の強くて口当たりのいい酒を重ね、酔い潰れるままにデカいのと頑丈なのが取り柄の硬いベッドに二人して潜り込む。
いつも通りの流れだった、筈だ。記憶がないのは寝落ちた所為だろう。
朝になれば、魔術師は勤めの為にいなくなっているのもいつものこと。
だが起きた瞬間に身体に残る違和感を気のせいと済ませるほどには、ベルゼは世間知らずでも経験がない訳でも無かった。
「俺に手を出すほど困ってる訳でもなかろうに」
夕べ一緒に呑んだ相手の秀麗な容貌を思い浮かべ、ベルゼは重い溜息を吐く。出来れば酒の上の過ちで済ませたい。せっかく出来た気の置けない友人をこんなことで無くしたくは無かった。

ベルゼは昼過ぎから仕事に出掛ける。動きやすい薄い皮のシャツと袖なしのジャケット。両腕に篭手。大柄な身体に見合った幅広の長剣を背負った姿は、どこから見ても荒事に慣れた人間のそれだ。
ベルゼは元傭兵である。いや、今現在も傭兵ではあるのだが、ベルゼの雇い主は今から向かう特殊な街区の一角全体であった。
王都の中央広場を抜ける。食料や生活用品を売る店が立ち並ぶ細い道を通り抜け、石で出来た門を潜ると街の様子は一変した。
いきなり広くなった道の両脇に大小の様々な趣向をこらした格子が立ち並ぶ。
まだ日も高いというのに、店先から漂う酒と脂粉の匂い。何処にでもある花街だ。現在ベルゼはこの街で雇われている、いわゆるところの『用心棒』という奴だ。
ベルゼは店の一つ一つを回り、変わりは無いかと聞いて回る。
もちろん聞きながらも周囲への目配りは忘れない。少しでも可笑しな点があれば、知らぬ顔で戻ってきたりもするのだ。
結構、そういう目端は利くベルゼのお陰か、最近ではどの店もトラブルは減っている。もちろん、まったく無い訳では無い。酒と女がいれば大なり小なりの騒ぎは起こるのだ。大したことではない。
最近のやっかいごとは。
「ヤバ、」
ベルゼが入って来た途端に腰を上げる男たちは、以前叩きのめした奴らだ。じろりとそいつらを睨み付け、楼主に声を掛けた。
「百華楼にいる」
睨みを利かせてそこそこ大人しく遊んでくれればそれで良し、そうでなければ使いを寄越せと言い置いた。もちろん後で不意打ちに除きに来るつもりだ。ベルゼの気遣いに楼主が安堵の笑みを浮かべる。
それに反発するかのようにどかっと何かを蹴り飛ばす音が響いた。
「一端の顔役気取りかよ。余所者の癖に」
聞こえよがしに上げられた大声に振り向くと、以前叩きのめした連中の横で若い男が立ち上がっていた。隣の男が泡を食って腕を掴んでいるが、一向に納まる気配は無い。
若い男は周囲の連中同様に、騎士服をだらしなく着崩しているが、その服自体は上質のものだ。腰に下げた剣の拵えも贅沢に見えた。
それなりのご身分の筈の坊ちゃんがこんな門に近い安楼にいるのは、格のある楼からは出入り禁止になっている所為だろう。
金に飽かせた下品な振る舞いは、高級楼では敬遠される。
「一応、雇われの身なんでな。大人しく遊んでくれるなら何も言わんさ」
ひとしきりの罵倒をおとなしく拝聴した後に、ベルゼはそう言い置いて店を出ていった。
「まったく、嘆かわしい」
店を出たところで出逢った魔術師は吐き捨てるように呟いた。切りそろえられた茶の髪に紫紺の瞳。
「暁」
大人しやかな少女のような見目だが、行動は中々に男前で老成している。というより、見た目通りの年齢でもないだろう。
「まぁ、そう言うな。鬱憤が溜まってるのさ」
「見た目だけは平和な世の中ですからね」
ティアンナという独立国家は周囲を大国に囲まれた小さな国だ。いつ侵略を受けても仕方が無いような。ただ、この国には絶対的な切り札がある。『魔術師』だ。
ティアンナは非常に厄介な問題を抱えている。黒の森と呼ばれる国境に横たわる広大な森は、数多くの力の強い魔物たちの巣窟だ。この森を抑え、国の中に魔物を留める事こそがこの国に与えられた役割であり、第一・国境の二つの騎士団はそれと戦う術を身に着けた強兵揃いだ。
だが、その他はといえば、何とも頼りの無い集団と成り果てている。
「戦うことしか知らん奴らから、それを奪えば剣を持った体力馬鹿の集団さ。俺も含めて、な」
「それでも貴方は己を抑える術を心得ている」
真っ直ぐにベルゼを見る暁から、ベルゼは視線を逸らした。あまりにも買いかぶられているような気がする。
「じゃあな、暁」
唐突に話を打ち切ったベルゼに、暁は視線を送っただけだ。良くも悪くも真面目な男だと短い付き合いだが知っている。
「ベルゼ。百華楼にいます。仕事の合間にでも話を聞きますよ」
背に掛けられた言葉に驚いて振り向いたベルゼの目に入ったのは、悠然と花街の大通りを立ち去って行く小柄な背中だった。
「まったく、怖いな。魔術師ってのは」
あれだけの会話で何か屈託を抱えていると見抜かれてしまったらしい。せっかくだから、相談を持ちかけてみようとベルゼは考え、次の店へと向かった。

「暁、空いてるか」
品のいい飾り格子の広い店先は今日もそこそこの賑わいを見せていた。花街の一番奥に位置する、もっとも歴史のある娼楼・百華楼である。店自体は古いがそこそこ小奇麗で値段も手頃、綺麗どころも品があり芸も出来るとあって、馬鹿騒ぎしたい若い男たちよりもそれなりの年の落ち着いた男たちが綺麗に遊ぶ店である。
ほぼトラブルとは無縁の店で、以前はベルゼも顔を覗かせる程度で引き上げていた。今日は元より暁に用があったのである。
「おや、ベルゼ。馬に蹴られるって言葉を知らないのかい?」
店先に顔を覗かせた楼主は、年増独特の色気のある美女だ。信じたくは無いが、暁の情人である。
「すまねぇ」
素直にベルゼは頭を下げた。この街で一番の発言権を持つ怖い女だ。怒らせる馬鹿な真似はしない。
「二階だよ。さっさとお行き」
楼主が親指で指し示したのは、吹き抜けの二階にある衝立の一つだ。ベルゼは肩をすくめて、二階へと歩き出した。
「すまんな、暁。待たせた」
「構いませんよ。貴方が考え込むなんて珍しいことですからね」
暁の前には冷えた果実酒と果物。それに珍しく揚げた薄肉が置かれている。
「一杯やるでしょう」
「仕事中なんで一杯だけな」
酒は好きだが、剣を振るう手元が狂うほどには呑む気はない。だが、呑まずに出来る話では無かった。
注がれた酒と同時に肉を盛った籠を差し出される。どうやら、ベルゼの為の肴であったらしい。遠慮なく好意を受け取り、ベルゼはスパイスの効いた肉を摘み果実酒を含んだ。
逡巡して口を開く。それは予てよりの疑問であった。
「あの、な。この国では男同士で番うってのは可能なのか?」
視線を合わせず、グラスを弄ぶ。随分とストレートな言い草になった気がして、再び酒を含む。
「ああ。やっとあの人、告白したんですか」
さらりと言われた爆弾発言に、ベルゼは含んだ酒を吹き出し掛けた。

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