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仮初の守護者<2> 

むせ返るベルゼを見る暁の視線は非常に冷たい。
「まさか気づいてなかったという冗談は無しですよ」
「待て。いや、待て」
ひとしきりむせて涙目のベルゼに向けられる冷えきった眼差しに、ベルゼは思わず待ったを掛けた。
「待ってますから、反論をどうぞ」
「有り得無いだろう。本気だとでも言う気か。揄っているんだろ?」
対してのベルゼの反論は至極全うなものであった。ベルゼの中では。
「何故ですか。貴方だって初めてだという訳でもないでしょうに」
「な、何で、それ」
反射的に出てしまった言葉は、ベルゼの口の中に戻ることはない。
「口説き文句への反応。極普通にいなしてたでしょう。今だってそうじゃないんですか? 言って置きますけれど、魔術師なんて疾うに人としての理からは外れているんです。私ですら貴方の数倍の年を経てきている。血を繋ぐ術もない」
同性であることに何の意味があるんですか。と締めくくられて、ベルゼは深く椅子に倒れこんだ。
「まぁ、ティアンナはそこは比較的自由な国ですから。貴方の国はそうでもなかったんですか」
ベルゼは頭をそのまま抱え込む。
「まぁな。俺はそこそこいい家で育ったからな。余計にそんな気にはなれん。ありゃ性欲処理だろう」
「貴方の常識範囲は解りましたが、あの人の気持ちを否定はしないでくださいませんか」
椅子に沈み込んだまま顔を覆うベルゼに、暁の容赦ない言葉が突き刺さった。
「後は一人にしてあげますよ」
暁が身を翻したのが気配で解る。同時に勢いこんで二階へと駆け上がってくる足音に、ベルゼはがばりと起き上がって身構えた。
「旦那!」
駆け込んできたのは、安楼の一つの使用人だ。
「すぐに来て下さい。騎士団の連中が暴れてるんで」
「おう。じゃ、暁。またな」
ここのところの困った騒動の元はこれだ。長年、平和に過ごしてきたティアンナで騎士団は血の気を持て余している。しかも、これが良家の坊ちゃんたちとなると、適当にいなすしか出来ないのが実情だ。
駆けつけた店の惨状は酷いものである。空いた口が塞がらないとはこのことだ。
テーブルが倒れたり、椅子が壊れたりしているのなら、その場でひっ捕らえて親を呼べば大抵は金で解決してくれる。
が、今日はそんな生易しいものではなかった。
あちこちでそこの娼姑たちが血を流してぐったりとしている。娼姑たちの周囲には壊れた楽器が散乱し、足の踏み場も無い。
二階からは、まだ暴れているらしい男たちの何処か調子の外れた笑い声が響いていた。
不味いと感じたベルゼは、抜刀しながら駆けつける。
男たちは笑いながら、ぶるぶると震えつつも娼姑を背後に庇う男に、剣を振り上げた。
その剣は間に走りこんだベルゼによって弾かれ、その手から飛んでいた。
「何の真似だ。あんたらの仕事はこいつらを守ることじゃないのか」
淡々と聞くベルゼにも解っていた。この騎士たちには平民を守る気など欠片もありはしない。騎士という職は、自分の栄達の手段にしか過ぎない。何処の国でもある有り触れた話だ。
だが。それは大前提の建前でなくてはならない。
「こいつらは無礼を働いた。俺たちは無礼者を懲らしめただけだ」
悔しげな表情は本気でそう思っているらしいことを示しているが、ここまでやればいくら良家の子息とはいえ、やり過ぎだ。そんな判断もつかなくなっているらしい騎士たちに、ベルゼは呆れた溜息を吐く。
ベルゼは周囲に視線を配った。前にいるのは一人、左に一人、背後に二人。
一斉に掛かってきた連中に向けて、ベルゼは左の男をなぎ払い、背後に蹴倒した。巻き込まれた背後の男たちが転がる。その隙に、前にいる騎士の顔を柄で殴りつけ、昏倒させた。背後の転がった一人の男の喉下へ幅広の重い剣を突きつける。起き上がることも出来ない重なり合う体制で突きつけられた剣に、全員が固まった。
だが、男はどうやら少々残念なお頭だったらしい。
「こんなことをして無事で済むと思うのか」
チープな脅しが利くと未だに思っているようで、震えながらも吐き出したのはいっそ天晴れだとベルゼは思った。
「お前の親が何処の誰かは知らんが、娼姑の顔を傷物にした上に、娼姑を庇った客にまで抜刀したとなると、さすがにやり過ぎだ。二度とここの大門は潜れないぞ」
花街は遊ぶだけではなく、社交場でもあるのだ。こんなことが親の耳に入らない訳が無いし、花町で殺傷沙汰を起こす様な粗暴な男には縁談すらこないだろう。末は自分と同じく、傭兵にでもなるしかなくなるというのに。ベルゼはぐったりと脱力するしかない。
「ここはこの暁の魔術師が預かります。騎士団に報告されたくなければ退きなさい」
凛とした高い声がその場に響き、男たちはぐっと喉の奥に言いたいことを押し込めた。この国で魔術師は絶対だ。例えどんなに子供に見えようと。
すごすごと倒れた男を担いで帰っていく騎士たちに、ベルゼは剣を引き、背後の声の主を振り返った。
「暁?」
「すみません。巻き込んでしまったようです」
いつの間にか付いてきていた馴染みの魔術師に頭を下げられ、ベルゼは怪訝な声を上げてしまった。

店主に頭を下げられつつ、事情を聞く。
この店は娼姑に歌や舞を仕込み、それを見せつつ、気に入った女を選んでもらう仕組みであったようだ。どの姑も歌も舞も楽器も弾ける。安い割りには上品な商売の魅せ方をしていた所為で客には旅人も多い。もちろん金払いのいいそういった客を店も優先するし、娼姑も自然とそうした訳だ。
だが、問題はその曲であったらしい。
ティアンナには伝説がある。昔、この国は周囲の国々を従える『皇国』であった。だが、永遠に続くものなど在りはしない。その皇国があわや滅ぼされるときに顕われた神竜によって隣国からの侵攻は退けられた。
透き通る水の身体を持った竜はその後、一度だけ姿を現す。伝説の焔の剣を持った英雄の守護として。竜はその男が死すまで共にあったという。
この伝説の英雄は、元は単なる辺境の村の出稼ぎ兵士であったというのも、この伝説に華々しい色彩を添えていた。
この英雄が魔物から皇女を救い出した歌は、多くの吟遊詩人たちによって奏でられ、この国の平民たちの間で好んで歌われる。多くの旅人たちがこの歌を望むし、この日も当然そうだった。
ところが、騎士たちは虫の居所でも悪かったのかいきなり暴れだしたらしい。
「いきなり、姑の手から三弦を取り上げまして、それで娼姑を殴ったんです。周囲のお客様が良い方々ばかりで、娼姑を庇ってくださったんですが、それに激怒されまして。私たちにも何が何だか」
初老の人の良さそうな楼主は戸惑った顔でいるだけだ。
「そうか。何処のご子息かは」
「存じております。お得意さまですから」
「話が拗れるようなら俺も付いて行くから、遠慮せずに声を掛けろ」
万が一ということもある。そこまで阿呆でも無いとは思うが、己の家名や名誉より馬鹿息子が可愛い親だっていないことも無い。
「それよりも、私の名を出してくださって構いませんよ。『暁』の名であの場を納めましたから」
いつもの飄々とした暁らしからぬ強引さにベルゼは訝しげに眉を寄せたが、口は出さなかった。余所者には解らぬこの国での道理もあるだろう。

「巻き込んだってのは何の話だ」
ベルゼが話を振ると、暁は可愛らしい少女めいた顔にどうとでも取れそうな笑みを浮かべていた。
「魔術師の間の話ですよ。ただ、少し忙しくなるとは思います。案外、そこかもしれませんよ。あの方が貴方に告白したのも」
「告白なんざ、されてねぇ」
忘れていた事実に、ベルゼがぶすりと不機嫌になった。

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