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仮初の守護者<3> 

「告白もせずに、いきなりですか。そりゃあ」
暁は漸くベルゼの不機嫌の原因に思い当たった。元より男同士など論外な相手に仕掛けるには悪手過ぎる。
「馬鹿ですかね。あの人は」
ベルゼのような無骨なタイプでは、確かに『性欲処理』と思われても仕方のない状況だ。
「俺もアイツも強かに酔っていたしな」
ベルゼの憮然とした言い様に暁は天を仰ぐ。とことん馬鹿だ。というよりも意外と不器用な男であるのは知っているし、一途で愚鈍であるのも判ってはいるが。
「いや、あれの所為か」
「え?」
ぽつりと呟いた言葉を聞き咎め、ベルゼが顔を上げる。
「いえ、ちょっとした思い付きです。それとベルゼ」
暁は先ほどまでの深刻そうな顔つきは何処へやら、打って変わって悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
「素直になった方がいいですよ。年長者としての忠告です」
笑い声を上げつつ、その場を立ち去る暁に、ベルゼは軽い眩暈を覚える。正直、馬鹿馬鹿しすぎて真面目に考える気すら起こらない。よしんば、同性でも構わないとしても、眉目秀麗な育ちの良さそうな魔術師と現役退いた中年傭兵など話にもならないだろう。
ベルぜは乾いた笑いを押し殺そうとして、怖い事実に気付いた。
「え~っと、暁、あの調子だと仕事に戻ったんだよな」
巻き込んでしまった云々といっていたし、魔術師たちの繋がりは強い。当然、騒動を自分ひとりで抱え込むなど有り得無いだろう。向った先は花街の大門だ。ベルゼはといえばこのまま明け方まで仕事に励み、最後にはここでの顔役である百華楼の女楼主へ報告することになっている。
久しぶりに現れた惚れた男が、己と過ごすこともなく帰っていった原因がベルゼだと知れればどんな嫌味を言われるか。
ベルゼは重い溜息を吐いた。

「暁のヤコニール。只今戻りました」
王宮魔術師たちは西の宮と呼ばれる内宮の一部に屋敷と庭を賜っている。質素を旨とするその庭は殆どが畑になっていて、堅牢な外壁が無ければ、そこが王宮の一部だと気付くものたちはいないだろう。
その西の宮を預かる魔術師は現在は暁の目前に座した男である。
「師匠。お帰りなさい」
にっこりと柔和な笑顔を浮かべる細身の男に、暁は困ったように微笑んだ。現在西の宮長を務めるこの男、蘇芳のブスターヴは暁の愛弟子である。足が不自由な身であった所為か、様々な魔術を身の内に持っている天性の魔術師だ。焔の属性の持ち主としては珍しく落ち着いた人柄で、数年前に西の宮を預かる身になった。だが、中身はまだまだ子供のようで、素直すぎる言動は古参の頭痛の種だ。
「お前はこの西の宮を率いている。私を師匠と呼ぶのは止めなさい」
もはや習慣と化している小言は、効果の欠片もない。
「はい。暁のヤコニール。街の様子はどうでしたか」
明るい声に反省の色はない。困ったものだと思いつつ、暁は周囲を見回した。
「そういいつつ、お前だってブスターヴを子ども扱いだろうが」
ニヤニヤと笑いを浮かべたまま口を突っ込むのは、見回した視線の先にいた長い銀の髪の男だ。
「蒼のソルフェース」
抑えるような声を上げたのは隣に控えた蒼の弟子である群青のレイサリオである。冷たい弟子の声に、首をすくめた蒼が黙った。
「あまり雰囲気は良くありません。花街でも一組、騎士団の坊ちゃん連中が大暴れして、暁の名で騒ぎを収めました」
苦情が来るやもしれません。と沈んだ声で続ける暁に、蘇芳はお任せくださいと胸を叩く。
晴れやかな笑顔に、誰もがそうじゃないと突っ込みたかったが、そんな無駄なことをする奴はこの場には存在しなかった。
「とりあえずは騎士団全てに触れを出して、あの剣に騎士を宛がうことが先決」
言葉を挟んだのは美しい波打つ黒髪の美女だ。
「アデレードの言う通り。もちろん、その不憫な騎士には俺が全面的に後ろ盾となろう」
美女の肩を支えるように、群青のレイサリオは逞しい胸を叩く。ほっそりとした美男美女の多い魔術師の中では、歴戦の騎士といった風情のレイサリオの外見は珍しい。
「頼めますか、レイサリオ。実は候補はもういるのです」
「候補?」
にっこりと笑う暁に、周囲がざわめいた。
「焔の気質と、真っ直ぐな気性。育ちはいいですが、いささか鬱屈しております」
「成程。気性は真っ直ぐだが、周囲に無理解な奴が多いと。何処ぞの貧乏貴族の長男か、それとも騎士家系の期待されない次男三男か」
混ぜ返すように蒼が続ける。
「腕の程は?」
「まだまだ発展途上。しかし、資質は充分にあります。鍛えるのであれば、私よりもレイの方が適任かと」
暁も蒼も剣の腕に関してはそこいらの騎士に遅れをとるようなことはない。が、見目の軟弱さも承知している。ここはいかにも歴戦の強兵という群青のレイサリオの外見の方が上手く働く筈だ。
「やってみます」
レイは大きくうなずいた。

「蒼のソルフェース。よろしいですか」
「何だ。俺は忙しいんだがな」
呼び止める暁に、蒼のソルフェースは面倒くさそうに振り向いた。
「ちょっと説教です。庭まで付き合っていただきましょう」
「そこまではっきり言われて付き合う馬鹿がいると思うか?」
冷たい一瞥を投げつけた暁に、蒼は表面上は平静に言葉を返す。だが、この柔和そうに見える少年姿の魔術師が、この宮で怒らせてはならないナンバーワンだと認めてもいた。反論しつつも、暁の背後について庭へと足を踏み入れる。この宮で唯一、花の咲くその片隅には、小さな墓標があった。
「リベアさま。この呆れた男を叱ってやってくださいませんか」
「猿芝居は止めろ。リベアがもうそこにいないのは知ってるだろう」
沈痛な面持ちで墓標へと語り掛けた暁を、心底嫌そうな顔で蒼が遮る。
「確かに魂はそうでしょう。でも、未だにリベアさまの肉体はこの地で土に溶け込んでおいでですよ。そうして貴方とともにあろうとおっしゃられたのでは?」
「そんなことは言われてねぇ。次は英雄と魔術師としてではなく生きていこうと」
そこまで言って口篭った。どうも暁は苦手だ。隠しておきたい想いをつい吐露してしまう。
「では、焦るのは止めなさい。蒼のソルフェース。貴方はあの男の前では唯の人。魔術師という仕事をしているだけの男です。らしくもなく思い悩んでおいでですよ」
「お前はずるいな。そうやってあいつの相談相手にちゃっかり納まっている」
口を尖らせたソルフェースに、暁はいよいよもって冷たい視線を投げる。お前は何処の駄々っ子だ。数百歳のじじいの拗ねた顔など見たくもない。
「とりあえず、身体から懐柔はお勧めしません。結構堅い家の出のようですし、こじれるだけでしょう。もっと、直截に言ってしまった方がいいですよ」
呆れるようにつむがれた言葉に、蒼は知らぬフリを決め込んだ。これ以上の反論は墓穴を掘るだけだ。
一理あることは認めるべきだろう。だが、問題は。
「生憎、そこまで枯れてないんだよなぁ」

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