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仮初の守護者<4> 

背後から突き付けられる刺すような気配に、ベルゼは剣の柄に手を掛けた。油断なく気配の方向を探る。
今日ぐらいは親元で大人しくしていると思っていたが、どうやら結構執念深い質であったらしい。
背後から襲い掛かる男を振り向きざまに切りつける。と言っても肩口をほんの少しだ。どこぞの御曹司かもしれないから、切り捨てる訳にはいかない。
対峙したのは二人。宵の口に騒ぎを起こした連中だ。息の乱れっぱなしの攻撃は、むしろお互いの邪魔にしかなっていない。
「まったく馬鹿ばっかりだな」
百華楼の女将には嫌味を言われるし、朝から晩まで散々だ。ベルゼとしては早く帰って休みたい。
掛かってくる二人を軽く交わしながら、路地の際へと追い詰められた振りをする。殺気の方向が定まりすぎていて、ベルゼは笑うより呆れてしまった。
追い詰められたと見せた路地裏から、男が一人飛び出してくる。
真っすぐに突き込むつもりだったようだが、ベルゼのような両刃のものならともかく、騎士の持つ片刃の長剣はそういった用途では用いられない。半歩で交わした。どころか、泳いだ身体に思いっきりベルゼの重い剣を叩きつける。
男は一瞬で昏倒した。
怯んだのは目の前の二人だ。追い詰めたつもりが見事に反撃されて、呆然と倒れた男を見ている。
「くそ野郎ッ!」
悔し気にベルゼに向かって吐き捨てるが、それは負け犬の遠吠えにしか過ぎない。ベルゼは圧刃の剣を肩に担ぎ、男たちを睥睨した。
「いい加減にしようや。これ以上無駄な争い事を続ける気か」
正直、ベルゼは疲れ果てていた。何が気に障ったかは知らないが、色街で女を巡っての争いならばともかく、気晴らしに暴れられては叶わない。
さっさと立ち去って欲しいところだが、そのベルゼの態度すらお気に召さないらしい我が侭坊ちゃんたちだ。
そのうち叩きのめす程度では済まなくなる。せっかく暁が魔術師の名をもって預かったというのに。
ベルゼは相手の好戦的な視線に深いため息を吐いた。

疲れきった身をデカいだけが取り柄のベッドに投げ出して、毛布を被る。だが、目はさえていくばかりで眠気は訪れない。
剣を振るい過ぎて軽い興奮状態になっている。いっそ、気持ちを切り替えた方がいい。寝酒でも飲もうと立ち上がったベルゼの腕を、誰かが捕らえた。
ギョッとして振りほどく。白みかけた外の明かりが、そこに立つ銀色の優美な姿を映し出した。
「蒼」
「ソル。そう呼べと言った筈だ」
出会った当初はそう呼んでいたが、力のある魔術師らしいと知ってからは、あえてベルゼは魔術師としての名で呼ぶようにしていた。魔物たちに対抗するこの国で『魔術師』というのは特別なものだ。名を呼ぶ習慣は無い。その中で自分のような一介の傭兵がされる特別扱いを気に食わないものたちはいる筈だ。
まだ少年の頃に故郷を出て、様々な土地を渡り歩いて来たベルゼは、そういったことには敏感だった。
「何か用か」
言葉を濁すようにベルゼは蒼に背を向ける。今朝の件をまざまざと思い出し、思わず緊張が走った。
「ふん。用が無きゃ来ちゃいけねぇ間柄になったってことか?」
蒼の言いようにベルゼが口をつぐむ。
「ベルゼ」
耳元に囁きかけられた声に、ベルゼは目を見開く。まったく気配がしなかった。
「あ、お」
「ベルゼ」
ベルゼを抱きすくめるように回された腕は、ひどく熱い。
「ちょ、待て。お前、何で」
「逃げるな。俺から」
腕を外そうともがくものの、細いその身体に似合わぬ馬鹿力はびくともしない。股間に伸びてきた指がベルゼのそれを探り当てた。
「眠れないんだろう。付き合ってやる」
軽く立ち上がったベルゼ自身を長い指が煽り立てる。
「誰が、そんなことしろって言ったかよ」
「しろとは言われてない。俺がやりたいだけさ」
荒い息の下からの抗議なんぞ、蒼が聞くはずもない。ベルゼは逃げられないことは知りながら、それでも抵抗をする意思だけは示した。
『逃げるな』
耳元で囁かれた言葉の、切実な響きに引きずられそうになりながら。

日が高くなるころに目覚めると、もう蒼の姿はどこにも見当たらなかった。ベルゼは酔ったような心地の頭を振り、水瓶の水で顔を洗う。
結局、早朝に訪ねてきた蒼の真意は解らないままだ。自分の身体が目的だと思う程にはベルゼは厚顔ではなかった。
何かのついでといったところだろう。
「やっぱ、あの坊ちゃんたち、ちょっと不味いのか」
雇われの自分が詳しく知っても仕方がないと放置していたのだが、何処のお貴族様かは早めに調べておいた方が良さそうだ。

「だから、貴方馬鹿なんですかね」
「何が」
早朝にベルゼの部屋へ忍んでいったのは、暁にはすぐにばれた。
「一言でいいでしょう」
「何を言えって?」
小声で話しているため、周囲には会話は聞こえてはいないが、それでもこんな場でする話では無い。目の前で繰り広げられているのは、騎士の選別だ。
騎士団へと所属している者たちへ、本日大掛かりな選別を行うと通達済である。
実際に選別を行うのは、暁の弟子である数名だ。見分けるのは『焔』の属性をもっているかどうかである。
既に魔術師たちの中で、誰を選ぶかは決定しているが、目の前で見なければ信じられない馬鹿はいくらもいる。
そのための迂遠な手段だ。
例えば目の前に並ぶ、いかにも殴られましたと言わんばかりの顔と性根の歪んだ男たちのような。

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