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仮初の守護者<5> 

荒んだ雰囲気は、どう見ても騎士というよりも道楽息子といった類の輩にしか見えなかった。
それを見た瞬間、暁は眉を寄せ、額を抑える。あのまま帰ればまだ救いはあっただろうに、どうやらもう一戦やらかして来たらしい。花街でとなると相手はベルゼだろう。
「馬鹿どもが」
吐き捨てた言葉には、呪でも掛かっていそうな勢いだ。あまりに苛烈なそれを横にいた蒼が聞き咎める。
「何だ?」
「花街で騒ぎを起こした頭の足りない坊ちゃんたちですよ。私が止めた時よりも傷が増えてるってことは、その後にも騒ぎを起こしたんでしょう」
「成程。馬鹿だな」
魔術師の名で預かった騒ぎを起こした身で、もうひと騒動起こすとは。
「それでもこの場に現れるとは、家名でもみ消しか泣き寝入りが効くと思っているらしいな」
我先にと周囲を押しのけ、列の前を陣取るが、騎士の誰もが冷たい目線で眺めているだけだ。面倒を嫌ってやりたいようにさせているのは丸わかりである。
「お名を」
魔術師が名を訊ねる。作り上げる『英雄』の座ではあるが、剣に宿る意思を納得させるものであらねばならない。
「俺の名も知らんのか」
尊大な言い草に、目の前の青年魔術師はチラリと目線を流しただけだ。
「名に宿る魔術の護りとその意思は名乗ることで発動をします。お名を」
「ナイフォード・グレイス」
大きく舌打ちをした後、騎士は渋々と言った風情を隠しもせずに名乗りを上げる。
「はい。結構です。お引き取りを」
青年魔術師は辛辣な口調ではっきりと告げた。どうやら、遠回しに伝えても意味がないと思ったらしい。これに激昂したのは名乗った騎士だ。取り巻きであるらしい後ろの二人も剣の柄に手を掛けていた。
「どういう意味だ。俺はグレイス家の長男だぞ。焔の属性があることも周知の事実だ!」
「今回の選別は、焔の属性であれば良いと言うものではありません。『焔の剣』が探し求めているのは、リベア・コントラと同様の魂の持ち主。貴方がそれだと?」
青年魔術師はあざ笑うかのように口の両端を引き上げた。いや、まさしくお笑い草でしか無かった訳だが。
「何だと」
掴みかかろうとする男を、青年魔術師は軽くかわした。魔術師の中ではそう腕が立つと言うわけでもない自分にすら指一本触れられないとは、お粗末極まる。しかも、身分やら態度やらを見ていれば、幼いころからそれなりの手解きを受けた上で、それなりの地位にあるのだろうに。
青年魔術師が未だ幼かった頃、リベアは既に老齢に達してはいたが、それでも剣の腕で魔術師たちにひけを取ったことなど無かった。
なのに、この男ときたら。
青年魔術師は、口汚い罵りの言葉など聞いてはいない。馬かロバが鳴き声を上げているとしか感知できなかった。
「次の者、前へ」
通る声を張り上げた青年に、なおも男が食い下がろうとするが、それは無情に弾かれる。ひっくり返った男に取り巻きが駆け寄るが、その手すら弾かれた。
「相手をするほど暇では無い。次の者」
どうやら、結界を張られたと気付いたのは何やらを叫んでいるらしいグレイス家の坊ちゃんの声は周囲には一切聞き取れない所為だ。
「名を」
平静にことを進める青年魔術師に、暁は頭を振って立ち上がる。姉弟子であった朱のモニクの愛弟子は、姉と同じく苛烈な言い様とキツイ性格であった。実力で黙らせるのも手ではあるが、あまり睨まれるのは宜しくない。
暁は青年魔術師の背後に立ち、わめき散らしているらしい男に向き直った。
「ナイフォード・グレイス。私の名で騒ぎを収めたこと、よもや覚えていないとは言うまい」
声は高くは無いが、それでも選別の列に並んでいる騎士連中には充分に聞こえるくらいだ。
ざわりと一部が騒めいた。暁のヤコニール。第一騎士団にその名も高い、主級守護魔術師。その任を得て、すでに百年以上。
子供の姿だと侮ることなどあり得ない相手だ。
グレイスの坊ちゃんはその姿に口を開けたままである。この場にいる魔術師は、いずれも王宮の上級魔術師。自分が不味い相手に逆らったことにやっと気づいたらしい。
「あの場だけであれば、花街の中。若さと酒の上のことと見逃すことも考えたが、その横柄な振る舞いは常であるようだ。騎士団の方にも報告が行くと思え」
そうヤコニールが締めくくると、尚もグレイスは拳を振り上げた。わめいている声は結界に阻まれ聞こえることは無いが、何を言っているのかは手に取るように判った。
『平民までふるいに掛けることが間違っている。英雄の座は貴族の中から選ばれるべきだ。英雄には相応しい立ち居振る舞いと品位が必要だ』
概ねこんなところだろう。口の形が平民風情と動いている。
「リベアさまは平民であったが、人として品がおありだった」
声が聞こえなくて良かったと暁は心の底から思った。絶対零度の視線を投げかけつつも、品の無い動物以下の聞くに堪えない戯言を聞かずに済んだのだから。
蒼のソルフェースが耳にすれば、その場であの馬鹿の命は無かったかもしれなかった。
そうこうするうちに、青年魔術師は数名の『英雄候補』を選び出し、その任を終え、暁に頭を下げる。
後の仕事は暁と蒼の出番だった。

「代々の騎士隊長さまの家の長男だぁ」
ベルゼが素っ頓狂な声を上げる。それなりの家の出だとは思ったが、予想以上に大物だった。
「はい。暁さまの名を出すまでもなく、娼姑に対する見舞金や弁償はしてくださいました」
親の方はそこまで馬鹿ではなかったらしい。すると、ベルゼに対する襲撃はバカ息子と取り巻きの一存だろう。
「不味いかな」
「はい。何か」
ぼそりと呟いたベルゼの言葉を、安楼の親父が聞き咎める。それにベルゼは何でもないと手を振った。
家の方で叱るなり、出入りの差し止めをするなりしてくれればいいが、尻ぬぐいをすればいいと思われているのであれば、余所者の傭兵風情では分が悪い。
最悪、殺されることも考えに入れねばならない。後ろ盾になりそうな人物は思いつくが、それを頼ることは傭兵として負けた気がする。
「邪魔したな。また何かあったら、呼んでくれ」
ベルゼはそう言いおいて、日の落ち掛けた花街の大通りを歩きだした。

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