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Working Dandy<2> 

「ウド。何でも頼め」
「はい。春香先輩!」
連れて行かれる店はいつも同じ居酒屋だ。会社の連中との呑み会でも使っているというそこは、こじんまりとしたいい店で、春香は今日も上機嫌で呑んでいる。
元々、この見掛けの割りに豪快な先輩は、仕事が終わった後に気持ちよく呑める酒と、うまいタバコがあればいいといった男で、この見栄えの割には浮いたうわさがほとんど無い。
まぁ、埋立地の工場など、女性従業員はバイトの若すぎるヤンキーなお姉ちゃんか、おばさんばかりなので、そんな相手もいないのが実情かもしれない。
もっとも、そんな相手がいたら、こうして有働と呑んでくれる筈も無かったが。




「ウドの大木か? お前は! ぼーっとしやがって!」
いきなり怒鳴りつけられて、ビンタが頬に飛んできた。
小柄なOBのいきなりの鉄拳に、有働はびっくりして目を見開いてしまった。
「お前はでかいんだから、あそこで先回りすれば、十分ゴール狙えただろう。コートの隅々まで意識を配れ! 聞いてんのか、コラ!」
驚きのあまり返事さえ出来ないでいると、今度はOBは有働の尻を蹴り飛ばす。
「返事ッ!」
「はい!」
今度は腹の底から、声が出た。全国大会を目指す様な高校だ。中学の様な気分では駄目だと思い知った。
「一年坊主ども。今日はみっちりしごいやるからな。覚悟しておけ」
そう云って、小柄なOBは獰猛な表情でニヤリと笑う。
それが有働と春香の出会いだった。
バスケの名門校の体育館のコートで、それなりにあった筈の自信を、完膚無きまでに叩きのめした大学生OB。
百九十近い長身の有働の遥か上からボールを奪うジャンプ力。有働より二十センチ以上も低い身体はすばしっこく、その動きには到底追いつけない。
練習用の白い短パンとタンクトップのユニフォームがひらひらと揺れる。まるでその下に、羽根でも隠し持っているかの様だ。

一旦奪われたボールは、易々とゴールされ、数時間に及ぶ練習中、ボールを奪い返すどころか、一度も追いつく事すら出来なかった。
散々コート中を引き摺り廻されヘトヘトになった頃、漸く練習が終わる。
一年生部員は、いきなりのシゴキに、ぜいぜいと喉を鳴らし、その場に座り込んでしまう。
だが、いつまでも休んでいることは一年坊主には許されなかった。
「おい、モップ掛けて戸締りしとけ」
「ハイっ!」
先輩たちの残酷な命令に、一年たちは気力を振り絞って返事を返す。
だが、動きは至ってのろのろとしたもので、モップ掛けが終わる頃には、あたりはとっぷりと暗くなっていた。
「ん、じゃ、後ヨロシク~」
要領のいい部員たちが去っていく中、結局、最後まで後片付けをしていたのは、有働である。
真面目と云えば聞こえはいいが、どこかトロイところが有働にはあった。
「まだ、残ってんのか?」
後は、鍵を閉めるだけと云う段階になって、体育館に顔を出したのは、春香だった。
「いえ、もう終わりです!」
疲れているだろうに、ピシッと背筋を伸ばすその姿に、春香はクスリと笑いを漏らす。
「要領、悪いな。お前。まぁ、いい。さっさと鍵閉めろ、車で送ってやる」

免許取立ての助手席で、結構危なげな運転に曝された有働だが、近くのファミリーレストランで奢ってくれるというので、緊張でがちがちになりながらも大先輩の言葉に従う。
だが、そこはスポーツマン同士、バスケットの話となると、途端に盛り上がり、いつの間にか時間の経つのも忘れて熱中した。
それに、シゴかれている時は、ものすごく怖い先輩だと思ったが、小柄な身体でエネルギッシュに喋る口元や、盗み見た整った横顔は、有働にとって周りにいた同性とは違う、可愛らしささえ感じる。
「お前、いい奴だな。何か和むよ」
家に帰りついたときに、そう云われて微笑まれた瞬間には、有働はすっかり春香にノックアウトされてしまった。

とはいうものの、大学でもバスケを続ける春香が高校へ顔を出す機会は、あまり存在せず、春香への悶々とした思いを抱えながら、有働はひたすらバスケットに精進するしかなかった。
春香へ近づく手段は、有働にはそれしかなかったからだ。
時折現れる春香のスパルタなシゴキは、確かにキツイが、それはちゃんと身に付ければ、実力になる練習方で、有働はめきめきと頭角を現していく。
「有働って呼びづらいから、お前、これからウドな」
と、春香が付けてくれた呼び名を、『ウドの大木』などと云う部員もいたし、つらい練習を待ちわびる有働を『春香女王様のマゾ奴隷』などと呼んで揶揄する連中もいたが、春香しか目に入っていない有働には、痛くも痒くもない。
大学も春香と同じところを目指すことにした。
四つ違いの春香は、有働が入学する時には入れ違いで卒業してしまうが、それでも少しでも繋がっていたい。
一途と云えば、聞こえはいいだろうが、はっきり云って馬鹿としか言い様が無い。そのくらい、有働は春香に夢中だった。


春香が怪我をしたのは、有働と春香が出会って、二年が経とうとする頃だ。
有働は最上級生となり、夏の大会が終われば、灰色の受験生活真っ只中になる。
そんな最後の大会の直前に、春香は交通事故に合った。
見舞いに行った有働に、ベッドの中から微笑んだ春香は、いつも以上に小さく見える。
「足、もう駄目なんだと」
ぽつりと春香が呟いた。
「駄目って、どういう意味ですか?」
信じたくない言葉に、思わず有働が詰め寄る。
「普通に走れるようにはなるらしいけど、もう跳べねーってよ」
春香は踵を砕かれていた。『普通』に走れたのでは、意味が無い。縦横無尽にコートを駆け回り、誰よりも高く跳ぶのが、春香のプレイだ。
あのプレイが、もう見られない。
「ウド?」
覗き込む春香の顔がにじむ。有働は無言で涙を流していた。
「馬鹿野郎。泣きたいのはこっちだ。俺なんか、バスケ出来なきゃ唯の人だ。今から就職活動するんだぞ」
春香の言葉に、有働はますます泣けてくる。
バスケットが出来なければ、決まっていた実業団も当然諦めなければならないのだ。自分が春香にしてあげられる事は何も無い。出来ることは、バスケットだけだ。
「俺、春香先輩の代わりに頑張ります。絶対に全国大会に勝って、春香先輩と同じ大学へ行きます。それで、いつか春香先輩の行く筈だった実業団にも行きますから。だから……」
言い募っているとますます涙が溢れてくる。
「馬鹿ウド」
春香はそっと泣いている有働の頭を抱き寄せた。
「可愛いこと云ってんじゃねーぞ、コラ」
しゃくりあげる有働の頭を、春香の小柄な身体に見合わない大きな手が撫でる。
有働は抱き寄せられたまま、ひたすら泣き続けていた。


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