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昔の感傷<転げ落ちた先に>新年SS祭り 

新年SS祭り第三弾・堂々一位「渥美✖鈴木」
本編「転げ落ちた先に」はこちら

渥美の住むマンションは、空港と埋め立て地の工場地帯を望む下町の住宅街にある。小さな社がそこここに点在し、何でこんな場所にと思うような住宅脇の小道に八百屋や喫茶店やパン屋があったりするのだ。
なので、渥美の恋人である鈴木の好きな、賑わってはいるが混みあってはいない程度に人口密度保たれた空間がいとも簡単に手に入る。
人ごみの嫌いな鈴木が何のためらいも無く、正月の参詣を思い立つくらいに。
数年前から鈴木はお守りに凝っていた。というより、渥美にお守りを渡すことに凝っているというのが正しい。
理系である鈴木は、御多分に漏れずご利益などと言う言葉とは無縁だ。よくある『天才は九十九%の汗と一%の閃き』という言葉も、
「努力しても才能の無い人間は駄目だ、なんてことはない。努力すりゃあそこそこは行くが、天才っていうのはその名の通り『天賦の才』を持った人間だ。その域に達することは無理だってことだ。同時に『天賦の才』も使いどころを誤りゃ、宝の持ち腐れでしかない」
と非常にクールなご意見をお持ちである。
要は鈴木が求めているのは『自分ではどうしようもないものを求める先』としてのお守りな訳だ。
渥美としても、自分の為に何かしらのことを恋人したいと望むならば、それを止めるつもりもない。指輪(鈴木曰くの首輪)は貰いはしたが、独身である渥美が目に付くところで着ける訳にはいかないし、毎年恋人が贈ってくれる肌身離さず身に着けられるものが嬉しくないわけがない。

「おい、義彦」
「あ?」
参詣を終え社務所へと向かう肩に掛けられた手に、鈴木は不機嫌そのものの声を上げて振り返った。
「連れに何か」
すかさず間に渥美が割って入る。名を呼んだということは知り合いではあるのだろうが、鈴木義彦は学生時代は有名人だったので、知り合い程度なら山ほど存在する。ただ、その知り合いを鈴木が一々覚えているかと言われれば、答えはノーだ。
「いえ、すみません。後姿が知り合いにそっくりだったので」
「……、」
頭を下げる男は鈴木と同年代くらいだろうか。鈴木は引っかかるものがあったのか、渥美の横から、じーっと男の下げられた頭を眺めていた。
「雑賀、か」
「え?」
鈴木の声に、男はがばりと頭を上げる。
「やっぱり、義彦」
「ああ。お前、禿げたな」
あんまりな言い草に、渥美は多少気の毒になった。だが、覚えているということはそれなりの付き合いがあったということで、渥美は少々胸のざわつきを覚える。
「……正直な感想どうも」
ぐったりとした顔で男が鈴木を見た。
「せっかくだから、茶でもと思ったんだが」
「ああ。ちょっと待て。買い物済ませてくる。お前一緒にいろ」
渥美に男と共にいるように命じて、鈴木が社務所へと向かう。渥美はその後姿を見守りつつ、チラリと男へ視線を流した。すると渥美を気にしていたらしい男と目がかっちりと合う。
「雑賀真純だ。義彦の元同僚」
「今の会社の上司です。大学では後輩ですが。渥美サクヤです」
「今の男って訳かい」
男の言葉に何処か嘲るような響きを感じて、渥美の男を見る目は一気に冷たくなる。が、あえて反論はせずに鈴木に視線を戻した。
買うものが決まっていた所為か、あまり時間も掛けずに鈴木が戻ってくる。
「ほら。去年の、炊き上げて来い」
「ああ」
二人っきりであれば、指先にキスでもして受け取るところだが、生憎ここは人目がある。無造作に渡されたお守り入りの袋を、押し頂くように受け取り、コートの内ポケットにしまい込むのが精々だ。
「じゃ、行くか」
「おい、義彦」
「来たけりゃ来い。この辺で茶飲めるとこあったか」
自分に目もくれずに歩き出す二人に、雑賀は慌てる。鈴木はちらりと雑賀を見ると、渥美に声を掛けた。
「この先に新しいホテルが出来た筈だ。そこのラウンジカフェ、中々いいらしいぞ」
「相変わらずの女王さまかよ」
付いてくるも来ないも自由と言わんばかりの鈴木の態度に、ぶちぶちと文句をつけつつも雑賀は二人の後を追って歩き出す。
入ったカフェは、大通りに面した明るく広い店構えだ。奥にホテルのラウンジがある。
「ちょっと腹減ったな」
鈴木が呟くと、渥美はさっとカフェのカウンターへと向かった。どうやら、カウンターで先に注文する形式らしい。窓際の四人席にどっかりと座った鈴木は、雑賀の記憶にある通りの何処か気だるげな雰囲気をまとっていた。
「よく判ったな」
鈴木が雑賀に目を向ける。気だるい雰囲気の中に、鋭くこちらを見透かすように向けられた瞳が雑賀に向けられた。
「後ろ姿だけだったから。振り向いた時には別人だと思ったよ。義彦が俺の名前を呼ばなきゃ、判らなかったかもしれない」
正直に吐いた言葉に、鈴木は薄い笑いを唇に乗せる。
「俺も随分と変わったからな」
「義彦」
渥美が割り込むように、テーブルへとカップの三つ乗ったトレイを置いた。
「何がいいか分からなかったからコーヒーにした。別のものを頼みたければ、自分で行ってくれ」
雑賀にそう告げた渥美が席へ着く。
「いや、それでいい。ありがとう」
雑賀はそこで初めてマジマジと目の前に座った男を見た。広い肩幅とすっきりとした容貌。今どきの女が騒ぎそうな感じでは無い男臭い感じの。
「サクヤ。俺の元カレってのか。前の会社で付き合ってた奴」
「ああ、そうか」
渥美の眉がピクリと上がった。雑賀はいつ男が怒って席を立つのだろうかと考える。
「雑賀。こいつ俺の男。多分、最後の」
鈴木の紹介に驚いたのは、雑賀だけでは無かった。渥美が隣の鈴木を振り返る勢いは、音がしそうなくらいだ。
「何だ、その顔。指輪まで受け取っといて、今更そんな気が無かったとでも言うんじゃないだろうな」
「いやもちろん、そのつもりだが」
渥美が驚いたのはそこではない。まさか、こんなにあっさりと相手に話すとは思わなかった所為だ。
「指輪? お前が? どういう意味だ」
一方雑賀は雑賀で別の意味でショックを受けていた。贈り物も好意も受け取る一方で、返すことすら無かった鈴木が。
容姿は確かに衰えてはいるが、そこまでしなければいけない程落ちぶれたのかと考えて、自分への態度がまったく昔と変わらなかったのを思い出す。
「お待たせしました。サーモンのマリネとパスタサラダです」
呆然となった男二人の心情など知る由もなく、店員が皿を置いて立ち去った。鈴木はそんな状況に構うことなく、マイペースに皿を引き寄せ、二口三口と咀嚼すると渥美の方へと皿を押しやる。その仕草に我に返ったらしい渥美は、いつも通りに残りを片付けはじめた。
「胃をやられたのは知ってるだろう」
不思議そうな顔をした雑賀に、鈴木は笑う。
「それが原因で会社を辞めたんだろ。いきなり引っ越しまでされてびっくりしたよ」
「そうか。お前、俺が辞める日に会ったんだぞ」
鈴木が可笑しそうに笑うのに、雑賀はますます訳が分からないという顔をする。
「だから言っただろう。よく俺だって判ったなって」
鈴木の言葉に雑賀は頭を殴られた気がした。
「もしかして、俺、お前が判らなかったのか?」
「お前だけじゃなかったけどな。でも、こいつは違った。大学以来全然顔なんか合わせてなかったんだぜ」
雑賀が渥美を見る。その顔は何処か勝ったといわんばかりの顔つきで、思わず殴りたいと思った。
「俺も逃したくないからな。一応、俺からの首輪だよ。俺のものだってな」
一瞬、何の話か解らなかった雑賀だが、それがさっきの指輪のことだと気付く。渥美を見る鈴木の瞳は、何処か愛おしげで優しい色彩だ。
「幸せそうだな」
「お前もな」
雑賀の手には社務所で買った絵馬やお守りの入った大きな袋が握られていた。独り身では有り得ない量だ。
「嫁がうるさいからな。そろそろ帰るわ」
思わず声を掛けてしまったが、あまり遅くなるのは不味い。感傷に浸るのはまた後でいいだろう。雑賀は渥美を見ないようにして席を立つ。
「お前もあまり煽られるなよ。単なる若いころの感傷って奴だ。今の生活の方が大事に決まってるだろう」
カフェを出ていく雑賀を見送った鈴木が、珍しく渥美にやれやれと言わんばかりの声を掛ける。通常嫉妬されているのは解っていても、小言をいうような真似はしない。だが、あまりに余裕の無さすぎる渥美に、自分の態度の酷さが身に染みた。
時折は忠実な家臣ではなく、恋人として扱ってやらねばと思う鈴木は、何処までも己が横柄な女王さまであることには気づいていなかった。

<おわり>

これにて2016年の新年SS祭りは終了です! 投票・リクエストありがとうございました。
今年もよろしくお願いします。

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