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仮初の守護者<7> 

その日、ベルゼは大門横の安楼で再び馬鹿どもを見掛ける羽目になった。
どうやら、花街の出入り禁止にまでは持ち込めなかったようだが、それでも騒ぎを起こすような真似はするなと念は押されているらしい。ベルゼと目線が合っても舌打ちして睨みつけるのが精々だ。
ベルゼはそれを平静を装った視線で見返す。背後には気を付ける必要がありそうだ。
「おい、楼主」
「はい。何でしょう、ベルゼ」
そのまま、奥の楼主の部屋へと声を掛ける。さすがにあれだけの騒ぎを知らない筈はないだろうが、注意を促すに越したことはない。
「あそこの連中。二軒先の幻声楼で騒ぎを起こしたのは知ってるか」
「ええ。さすがに同じ楼に上がるほど阿呆じゃなかったみたいですね」
まだ、若い楼主は荷運び人足か農家の働き手の方がしっくりきそうな逞しい体つきだ。口調も意外とキツイ。門そばの安楼とあって、荒くれた連中が来ることも多いが、意外とトラブルの少ない楼だ。
「あの、老騎士が執着している姑だけは気をつけとけ」
「解かってまさあ。あの連中もうちの店には腰が引けてた筈なんですが、他に入れる楼もなかったんでしょうよ」
この南天楼に出入りする体格のいい連中に比べれば、半端な騎士など一発殴られて終わりだろう。だが、相手は一応剣を持っているのだ。
「油断するなよ。開き直られると事だ」
「ベルゼも気をつけておくんなさい」
相手はこちらの命など虫けらとしか思っていない。二人して囁きあい、ベルゼは楼の外へと向かった。
ベルゼが次に立ち寄ったのは、大通りの真ん中程に位置する中堅どころの楼だ。観光客相手のいい酒といい肴といい女を揃えた、宴会向きの楼である。しっぽりとする客がいない訳では無いが、大きな店の間口と窓から他の楼の女を見定め、そちらへ流れることも多い。楼主自ら、好みを聞いて他の楼の女を宛がってもくれる。
常に流れの芸人が出入りしているし、女も入りやすい雰囲気の楼だ。
「ベルゼ。あんたを待っている人が来てるよ」
声を掛けてきたのはこの楼の客の出入りを預かる気働きのいい女中だ。確か、楼主の情人だった筈だが、今もそうかはベルゼには解らない。
「二階の真中の部屋だよ。女連れだけど、トラブってる訳じゃないよね」
「女連れ?」
待ち合わせをしたのは確かだが、連れがいるとは聞いていない。ベルゼは不審に思いながらも示された部屋へと向かった。
「レイ、入るぞ」
ガラリと戸を開けると、そこには二人の男女が窓際のソファへ寄りかかり、外を物珍し気に眺めている。一人はレイ。もう一人は。
「お主がベルゼか。レイから話は聞いている」
波打つ黒髪の美女は、男勝りな口調でベルゼに語り掛けた。突然現れた最上級の美女に、ベルゼはどういうことだとレイに視線で助けを求める。
「俺の妻なんだが、面白がってな。一度華楼に上がってみたいと言い出して」
すまんと謝る形に片手を立てられ、ベルゼはがっくりと肩を落とした。
「遊びじゃねぇんだぞ」
「ああ、私のことは気にするな。お主には劣るかもしれぬが、レイよりは使えるぞ。助太刀だと思うてくれ」
思わず愚痴を零したベルゼに、美女はからからと笑って腰に差した長剣を叩く。
「アデレ。本当だとしてもお前の夫としては複雑なんだが」
「先の近衛隊長殿のお仕込みだ。お前などに負けては顔が立たぬよ」
しれっと言い放った美女に、レイは頭を抱えた。
「まぁ、妻の言うことは本当なんで安心してくれ。世間知らずのお嬢様なんでやりすぎで不味いと思ったら、怒鳴ってでも止めてくれると助かる」
いいところの出だとは思っていたが、お貴族様らしい奥方にやり込められている様は、尻に引かれているのがありありと解って、ベルゼは苦笑いと共に共感を持った。成程、身分に関わらず、奥方が強いのは何処の夫婦も同じらしい。
「そやつら、何処ぞのお貴族様のご子息なのであろう。何、悪いようにはせぬよ。後ろ盾と言うのは持っていて悪いものでは無いぞ」
「そりゃありがたいが、何で俺にそこまでしてくれるんだ?」
人の悪い笑みを浮かべる奥方に、ベルゼは疑わし気な視線を向けた。いくら夫の知り合いだと言ってもそこまで入れ込む意味が解らない。レイに頼ったのは唯一の身分の高いものにつながる知り合いがそれしか無かったからで、それ以上でもそれ以下でもない。
「気に入ったからだ。それ以上の訳などいるまいよ。いくら夫の知り人であったとしても、私は私が気に入らぬものに手を貸す気など無い」
キッパリとした物言いに、ベルゼはニヤリと笑う。女ではあるが、いい友人になれそうだ。
「どうせ、あいつらは動く。今日な」
「どういうこと、」
確信を持ったレイの言葉に、ベルゼが上げた声は途中で飲み込まれる。サッと窓際へと身を隠したベルゼに代わってアデレが堂々と大通りを歩く男たちの姿を追った。
「ふむ、奥へ向かったようだな」
「どうせ高級楼からは出入り禁止の身だ。待ち伏せでもするしかないだろう」
「お前ら、何か知ってるな」
落ち着きはらったアデレとレイに、ベルゼは何か釈然としないものを感じる。
「奴らが噛みつきそうな先はな。そいつを守るのは俺の仕事でもある。奴らがイラついてた元もそれさ。だから今回、お前は巻き込まれたに過ぎない」
「だが、高級楼で騒ぎなんぞ起こせば」
今度こそ出入り禁止だろうか。それとも、何かあってもまた親が後始末に出てくるか。
「奴の家では、上から何を言われても堪えやしない。そこで俺たちの出番だ。決定的な証拠としての証人の役割」
「成程な。じゃあ、派手にやっちまっても大丈夫か」
「お前が危ないと判断したら、アデレが入る」
「止せよ。あいつら程度なら」
真剣な様子に、ベルゼは強がって見せたが、レイに腕を掴まれた。
「あいつらを殺しても構わないのなら。お前は負けない。だが。今回はハンデがあるぞ」
戦闘不能にしてもいいのなら簡単だ。腕か足を切り飛ばしてしまえばいい。だが、死なない程度に手加減しながら、殺す気で掛かってくる相手を抑えなければならない。しかも多数を相手取って。
「無理は禁物だ。しかも今回は絡まれた男も守ってほしい」
「どんな無茶振りだ」
命を大事にしろと言いつつ、レイたちに難易度を上げられた気がする。ベルゼは舌打ちをしながら、階下へと足を進めた。
「そいつ、絡まれないようには出来ないか?」
「いや、むしろ騒ぎを起こさせたいんだ。騎士団でも揉めていると言っただろう」
いい機会とばかりに放逐を狙っているというところか。ベルゼは無言で奴らの後を追った。

クラージェは戸惑っていた。上質の酒と肴と女に囲まれ、盛大に祝ってくれる気持ちは嬉しい。だが、貧乏育ちの所為でどうしても値段のことを考えてしまい、目の前の祝い膳にも集中出来ないでいる。
「悪い。外の空気吸ってくる」
立ち上がるクラージェに、マリエールはにっこりと笑って手を振った。おそらく、何を気にしているかは解っているのだ。
格子の外へ出るクラージェに、女たちが優雅に頭を下げる。さすが、高級楼。クラージェが上客の連れだと全員が知っているらしい。
店の外へ足を踏み出したクラージェは、いきなり横合いからぶつかられた。
「すまん」
ぶつかってきた相手が盛大に転んだのを見て、クラージェは手を貸すべきかとそちらへ踏み出す。そんなに強くぶつかった覚えは無いが、酔っぱらいかなと軽く考えた。
だが、何かを感じてクラージェが跳び退いたそこを、転んだ男の振り向きざまの剣がかすめ去る。
「無礼者! 態とぶつかったな」
憤怒と憎悪に彩られた顔が立ち上がる。それは見知った顔だった。
「グレイスさま」
呆然とクラージェが呟く。
「ぶつかっただけではなく殴ろうとしたぞ。俺は見ていた!」
大声でわめいている顔にも見覚えがあった。グレイスの取り巻きの一人だ。
ある程度のやっかみは受けるだろうとは思ってはいたが、避けなければ、確実に手首は飛んでいた。そんなことになれば、命はあっても騎士の職も失う。
クラージェは携えて来た剣を構えた。抜きはしない。そんなことをすれば、殺そうとしたと難癖を付けられかねない。
背後から掛かってきた相手を鞘で払う。勢い余って転がった相手の鳩尾めがけて鞘を振り下ろした。
その隙を付いて、横合いから飛び出して来た男を薙ぎ払い、襲ってくるグレイスに向けて突き飛ばした。諸共に倒れ伏した男目掛けて鞘を振り下ろす。
グレイスは気を失った男の下でジタバタともがいていた。それに安堵して鞘ごと振るっていた剣を下ろす。
その背を誰かに突き飛ばされた。
ガキン、と剛剣同士のぶつかる音が響き、クラージェは自分を背後に庇った男の広い背中を見ながら、命拾いしたことを知った。

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