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仮初の守護者<8>完 

ベルゼがその場に割って入らなければ、男は確実に切り捨てられていただろう。状況を把握する思考も目配りも悪くは無いが、まだまだ発展途上。しかも、真っ当な手段で立ち向かってくる相手に対してのそれだ。
先程までの貴族の坊ちゃんたちが真っ当な素人であるならば、目の前の男は確実に玄人であった。金で雇われたと思われる男は、だが、いいところの坊ちゃんたちが雇うにはいささか剣呑な相手で、無事に事を成していたら一生たかられる羽目になったかもしれない。
傭兵には軍族や騎士階級のものが多いが、ならず者も多い。それでも腕さえ立てば、真っ当な仕事を正規のルートで紹介してもらえる。ベルゼのように気に入られてそこで居つくものもいる。実力者に認められて雇われの身となるものもいる。
だが、中にはそこからさえはみ出していくものもいるのだ。裏街道へと歩を進めてしまうものたちが。
手段を問わないものはいる。それはベルゼ自身も覚えがあった。己の力不足を嘆くよりは、何が何でも仕事を完遂する。その為に必要な手段であればどんな手も厭わない。傭兵とは、戦うため守るための道具であって、害するための武器ではないのだ。
「貴族の坊ちゃんなら、裏仕事を請け負ってくれる雇い人には困らなかっただろうに」
ベルゼは思わず呟く。そういう雇われ人であれば、もっと綺麗にことを進める筈だろう。つまり、こいつは坊ちゃんが単独で雇ったということだ。親の思惑は関係ない。それであれば、思いっきりやっても罪に問われることはないだろう。
ベルゼはつばぜり合いをしていた相手に蹴りをくれ、思い切り踏み込んでいった。

血の匂いが鼻につく。
かろうじて勝った相手の腹にはベルゼの剣が開けた大きな穴があった。そこから流れ出す血はたちまちのうちに地面を染め、倒れ伏した男はぴくりとも動かない。
ベルゼは肩で息をし、剣を突き立ててかろうじて立っていた。小さな傷はいくつも負っていたが、痛みはほぼない。というよりも、今興奮状態にあるだけで、落ち着いたならば一斉に痛み出すだろう。
「あの、すみません。俺の所為で迷惑を掛けてしまったようで」
遠慮がちな声がベルゼの背に掛けられた。平凡で真面目そうを絵に描いたような男。野暮ったい騎士服は、同じ服でも仕立てが違えばここまで違うかと思わせる程、垢ぬけていなかった。
「仕事だ。気にするな」
ベルゼが振り向いた先で、ナイフォード・グレイスと取り巻きは周囲の人々によって、いつの間にか拘束されている。
「そいつは知り合いか」
「同じ騎士団の……」
ベルゼの問いかけに、そこまで言った男・クラージェは言葉に詰まった。
「貴様、この俺に逆らってどうなるか判ってるんだろうな」
グレイスの恫喝に、ベルゼは天を仰ぎ、クラージェは青ざめる。
「これだけの証人がいて、まだどうにかなると思っているのか。お前、こいつを殺そうとしただろう」
ベルゼは淡々と事実を突きつけた。
「そこの男に、殺せだのなんだのとわめいていたのは、ここにいる全員が聞いてるぞ」
「僕は証言するぞ。リベアに害をなそうとする奴を放っておけるか」
「マリエ。止めろ」
リベア・クラージェの背後から、マリエールの凛とした声が響く。
「僕はザンバーレ・マリエール。覚えておけ、ナイフォード・グレイス」
「お前、何てことを」
クラージェが慌ててマリエールを止めに入った。当たり前だ。自分のような名だけの貴族ではない。それなりに力も財力も持った相手だ。いくら成功している商家とは言え、睨まれたらひとたまりも無い。
「大丈夫だ、リベア。ここは百華楼の格子前だ。そこで行われたことを見過ごしに出来る筈もない」
「それにお前の独断で行ったことだろう。お前の親がそんな危なそうな連中を雇うのを承知する筈がない。お前らのようないいところの坊ちゃんが関わりあうような連中とは違うぞ」
こちらを睨みつけていたグレイスの目が、所在無げに泳いでいく。反抗する気も無いと見て、ベルゼはちらりとレイ夫婦に視線を送った。二人がうなづくのを見て、ベルゼは王都警備へと人を走らせる。ようやくゆっくりと眠れそうだ。

部屋へと帰り、丈夫なのとデカいのが取り柄のベッドへと身を投げ出す。
そのまま意識を放り出そうとして、ベルゼはがばりと跳び起きた。
「誰だ」
暗闇に誰何の声を掛ける。そこに現れたのは、闇に溶け込むには無理の在りすぎる見知った男の優美な姿だった。
「やっと眠れそうか」
「何で知ってる?」
やけに嬉し気に掛けてくる弾んだ声に、これは機嫌がいいらしいと思いつつ、問いかける。
「魔術師同士の情報網って奴だ。お前の無事が判ってほっとしてる」
「…ッ、」
ストレートに帰ってきた答えに、ベルゼは顔に血が上るのを抑えきれなかった。
「本当に良かった」
強い力で引き寄せられ、抱きしめられる。細いが鍛えられた蒼の腕が、震えているのに気づいて、ベルゼは何となく逆らい難くて、腕の中に納まったままじっとしていた。
そのまま、押し倒されたとき、ああ、今日もか。と頭を掠めたが、確かめたい気持ちは理解できた。代わりに問いかけたのは別の疑問だ。
「何で俺なんだ」
「さぁな。ただ。お前を見ていると胸の奥がざわつく。それだけだ」
「そうか」
惚れたの何だのと言われるよりは、すとんと胸に落ちた。するりと腕を蒼の背に回す。それにびくりと蒼の動きが止まった。
「どういう風の吹きまわした?」
「不満なら抵抗するが」
「不満と言うよりは、不気味だな。何考えてる?」
あまりな言い様に、ベルゼはむっとした顔を隠しもしない。当たり前だ。人がせっかく積極的に出てやったというのに、その疑りはひどすぎる。
「止めた」
身体を起こしたベルゼに、蒼は肩をすくるだけだ。積極的なベルゼなど、気持ちが悪い。
「さっさと出ていけ。俺は眠いし、疲れた」
「ああ」
毛布にもぐりこんだベルゼの横に蒼が座り込んだ。ベルゼの短い髪をその優美な長い指が梳いていく。繰り返されるそれに、ベルゼは吸い込まれる世に眠りについた。

「蒼のソルフェース」
声を掛けてきたのは、魔術師には珍しい逞しい体つきの群青のレイサリオである。血のつながらぬ養父に似せるように、鍛え上げられた身体と短く刈った金色の髪の所為か、紫紺の瞳を隠したことすら無いというのに、魔術師だと思われることは少ない。
「朝帰りですか」
「ああ。片付いたんだろう。少しくらいは構わない筈だ」
「焔の剣の方はご不満なようですが、育てる余地はありますから」
それは不満だろう。本物がそこにあるのに、宛がわれたもので我慢しろとは。
「何でそこまでする?」
「父の最後の願いです。息子として叶えたいと思うのに不自然な点は無いと思いますが」
死ぬ間際まで、いや、死すら自由にはならなかった己の養父の不器用な生き様を、レイサリオは厭うてはいない。むしろ非常に愛おしく思っていた。だからこそ、今生は自由にあってほしいのだ。
「魔術師だと隠してベルゼに近づいたのに、か」
「俺だって父親が恋しい時くらいありますよ。でも、似てませんね」
ふっと思い出してレイサリオが笑う。単純な男は、どうやら何処ぞの貴族だとでも思っているらしい。
「ああ。同じ魂だが、別の生き方をした別の人間だ。驚くほど同じで恐ろしいほど違う」
育ちのいいらしい男は、粗野なようでいて何処かに品が漂っていた。素直な反面、教育からくるらしい疑り深さと慎重さがある。鈍いと思われがちな心の動きも、そうしなければならないと考えているようだ。だが、その反面こちらが反応に困るほどの感の鋭さを見せるときがあるのだ。大きな体躯で使用する力任せの技に手慣れているかと思えば、敵の懐目掛けて突っ込んでいくこともある。
同じだが、違うことを蒼のソルフェースは楽しんでいた。
「嫌らしい笑い方しないでくださいよ。貴方の下の事情何て知りたくもないんですから」
口元が緩んでいることを指摘されるが、蒼はそれをやめようとは思わない。
「まぁ、抱き心地も違うしな」
「態とですね。師匠」
師匠の部分に力を込めたレイサリオに、蒼は今度こそ声を上げて笑い出した。
数年後、ベルゼと蒼の二人が花街の大門のあたりで痴話げんかをする様が見られるようになるのだが、そんなことはまだ未来の話だ。

<おわり>

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