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どうでもいい男(ひと)<3> 

「もう少しでいいから、こっちに気遣って欲しいんですが、それって我が侭ですかね」
「当たり前だわね。振られたこっちが何で努力して付き合わなきゃいけない訳? 馬鹿ばかしい。やっぱり、金づるにする気満々じゃないの。アンタそこまでプライドの安い男じゃないでしょ」
確かにその通りだ。振られた朔が、女の都合のいい男であり続ける謂れは無い。
「ただね。その子、プライドだけは高そうじゃない。変なことになったら、教えなさいよ」
久遠も、まだ若くて自分の性癖が認められずにいた頃、女と付き合ったことはある。社会人になってからも、カモフラージュで付き合ったこともあった。少ない経験ではあるが、朔が付き合っていた女はトラブルメイカーの匂いがするのだ。
「そこまでご迷惑は掛からないと思います」
楽観的な意見を述べる朔に、久遠は出そうになる溜息をかみ殺す。ぐいっとぬるくなったホットウィスキーを朔が煽った。
「駄目よ。必ず教えて。男同士の約束よ」
強い調子で目を覗き込む久遠に、朔は目を丸くする。が、次の瞬間へらりと緊張感の無い笑いを浮かべた。
「主任は優しすぎますよ。俺、勘違いしそうです」
「勘違い? 何を、よ」
「何でこんなに親身になってくれるのかなー、もしかして、俺に惚れてんのかなとか。アホ丸出しの勘違い。振られたばっかなのに、馬鹿ですよね」
自嘲気味の薄い笑いを乗せた顔には、表情が抜けていた。
「馬鹿だわね。そんな危機感の無いこと言って、どうすんのよ。アタシがそのつもりです。って言ったらどうする気なの」
「んー。主任ならいいかなー。俺、慰めてくれます?」
悪い酒だと久遠は思った。自暴自棄というよりは、単なる言葉の掛け合いに過ぎないだろうが、こっちも恋人と別れて溜ってる。酒で上気した熱っぽい視線はそのつもりがないと解っていてもくらりと来た。
「言っておくけど、アタシが男でも良ければ犯るけど」
「知ってますよー。主任、俺が見ても惚れ惚れする体格してるじゃないですか」
タチだのウケだのは解らないだろうと、あえて『男』と表現したのだが。
「そうじゃなくて、アタシがアンタに突っ込んでもいいかって聞いてるのよ」
はっきりと言い放った途端に拒絶して走り去って欲しかった。正直、こんな状況で正気をいつまでも保っていられるほど、理性的な質ではないのだ。
だが、朔はいきなりゲラゲラと声を上げて笑い出す。
「ええ、俺相手になんか無理でしょ。俺、主任みたいに渋くもないし、カッコ良くもないモブなおっさんじゃないですか」
「アンタがおっさんなら、アタシなんかじーさんじゃないの。もう、悪い酒ね」
雰囲気ぶち壊しの笑い声に何とか流されそうな気分を立て直した。ここまで酔っぱらっていれば、何を言っても覚えていないだろう。体の良い『王様の耳はロバの耳』だ。
「アンタの話は聞いたから、今度はアタシの話を聞きなさいよ」
覗き込むようにして目を合わせると、朔は酔っ払い特有の濁った視線で、それでも真面目に相槌を打つ。好都合だと吐きだし口の無い話を、久遠は朔に投げかけた。

好きな男にパートナーが出来たと知ったときには、さすがにショックだった。男はどちらかと言えばノンケ寄りで、可愛らしい年下の子でもない久遠では相手にしないだろうと諦めていたのだ。だが、男が選んだのは自分と変わらない年のいかにもなおっさんだった。
「もう、ショックなんてもんじゃないわよ。こんなおっさんに負けたのかと思うと悔しくって」
自棄になって呑み過ぎて、気が付いたら知らない男とベッドの上。
「主任。自分大事にしないと駄目です」
何処かたがの外れたような一本調子で慰めの言葉を口にするが、まったく心もこもっていなければこちらの話を聞いているかどうかすら危うい。だが、今はそれが良かった。
「そうよね。でも似てたのよ、そいつ」
好きな男にちょっとだけ横顔が似ていた。もちろんその男よりはずっと劣る相手だったけれど。あんないい男がそうそういる筈は無い。
「ハイスペックイケメンだったんですか」
「ハーフかクォーターらしいけど、鼻が高くて彫りが深い顔立ちでいい身体してたわよ。良い声でね。ちょっとくらくらしそうな感じの」
薄い笑いは何処か寂しげな風情で、寄り添いたいと切望していた。と当時に自分は相手にされないだろうとも久遠は知っていた。男のタイプなのは、純情で真っすぐで可愛らしい人だというのを、店の誰もが知っていた。こんなすれたおっさんでは相手にもならない。
「その人、好きな人がいたんですか」
「店のマスターと取り合いしてたもの。身体は大きいんだけど、真っすぐで純な心根の若くて可愛い子。顔立ちとかじゃなくて、態度や仕草が可愛いのよ」
皆でけん制しあっていて、誰も前には出なかった。それがいつの間にか店の常連と付き合っていたらしい。
「そいつの為に初褌。もう悔しいったらありゃしない」
諦めて、寝た相手と付き合い始めた。
「どうやら、アパート代が払えなかったみたいで、すぐに転がり込んできたわ」
勝手気ままに、久遠の財布を当てにして生活するようになるのは、すぐだった。アルバイト程度に働いていた職を辞め、昼間から酒くらってごろごろするだけ。
「賭け事しないだけでもマシかって思っていたんだけどね。そいつ、アタシのカード勝手に持ち出したのよ」
「泥棒じゃないですか」
時折打たれる相槌に、安心して話し続ける。
「そういう手口だったみたい。しばらく暮らして、ある程度相手の好みやらを把握した上でカード持ち出して、暗証番号推定して引き出し。気付いて問い詰めたら大喧嘩よ。すっきりしたわ」
何となく感じてはいたのだ。目当ては金だと知ってもいた。
「どうしてですか。解ってたんでしょう。俺の相手だって知ってたじゃないですか」
酔っ払った朔は言葉が足りてない。だが、言いたいことは把握出来た。聡い久遠が気付かなかった振りをして付き合ったのは何故か。
「どうしてなんだかね。寂しかったのかも」
外で『普通の』男として振る舞う一方で、気が抜ける店で出会った相手。未練たらたらで、時折相手のパートナーにさえ嫉妬を抱く。そんな気分を晴らすのに都合の良い恋人。
「アタシにとってもアイツにとっても互いに都合のいい、どうでもいいひとだった訳よ」
寂しげな顔をする久遠に、朔の酔った頭でも不味いことを聞いてしまったことぐらいは判った。何と声を掛けていいか解らない。
「そんな顔しなくてもいいわよ。もう、忘れることにしてるんだからぁ」
おどけた調子で言う久遠は朔の背中をバンと叩く。逞しい男の力はかなり痛い。
「痛いです、主任」
「あはは、悪い悪い」
ケラケラと軽い笑い声を上げ、久遠は残りの酒をぐいっと煽った。軽いホットウィスキーからいつしか強いストレートへと移行している。そんなに強くは無い朔には、口当たりの良い果実酒が供されていた。二人ともかなりの酔っ払いである。
「俺も忘れることにしますよ」
「そうそう、その意気よ。都合の良い人なんかくそくらえっての」
しゃべりつつ、つまみにと出された料理に手を伸ばすが、並べられた皿の上には何も残っていない。
「あら、もう終わり? これからなのに。仕方ないわね、何か作るわ」
「いえいえ、主任。もう結構です」
「あら、アタシの料理口に合わなかったかしら?」
「とんでもない。美味いですよ。ここのところコンビニ飯ばっかりだったんで」
誰かの手作りというのは、余程の飯マズでもない限り、大抵は美味く感じるものだ。特に普段出来合いばかりであれば尚更だ。
「なら、甘えなさ、」
立ち上がろうとした久遠がふら付き、そのままその場へ座り込む。
「いやねぇ、もう年だ、わ」
「そんなことない、ですよ。主、」
ふらりと朔の上体が傾ぐ。そのまま意識は闇に引き込まれていった。

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