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選んだ相手と<憧憬の王城>番外 

「宿を探している」
俺の目の前に座ったアデイールが、酒場の主人へと声を掛ける。言葉は非常に短く派的なものだ。ここ数年様々な場所を旅してきた中で、雄弁は時に災難をもたらすと知っている。
「宿かい。ここでも構わなければいいよ。ただ、うちじゃ最低限のもてなししか出来ない。まぁ、食事だけは腕を振るわせてもらうがね」
酒場の親父は人好きのする顔で笑った。確かに飯は最上級に美味い。俺は黙ったまま、とろけるように煮込まれた肉の欠片をじっくりと味わった。
「じゃ、しばらくの間、世話になる」
「お代は先払いだよ」
言葉に従い、俺が懐から銀貨を一枚取り出す。
「これでしばらくは大丈夫だろう?」
俺がうかがうように親父の顔を覗き込むと、親父は目を見張っていた。
「そんなに長居する気なのか?」
どうやら、この街ではかなり貨幣価値は高いらしい。むしろ、懐を狙われる心配をした方がいいかもしれない。
「ああ。良い街だし、ゆっくりと休みたい」
「それなら、むしろ家でも借りた方がいいんじゃないか。飯付が良ければいいところを紹介するよ」
今まで黙っていたアデイールがぽつりと呟くのに、親父はお節介なのか、厄介払いなのか解らぬ言葉を投げかける。安宿の長期の滞在はあまり歓迎されない。安宿の多くが身元の確かではない人間も泊めることが多い所為だ。
どちらにしろ、お勧めに従うことにする。あまり我を張っては、余計な憶測と疑念を招きかねないからだ。

親父に紹介された家は、煉瓦造りの小さな家だった。山の斜面に張り付くような形のため、歪んだ三角になっている。
「あんたらがショーンの紹介の人たちだね」
こちらも人好きな笑顔を満面に浮かべた大柄な女が太った身体を揺するようにして俺たちを見下ろした。俺だけではない。俺より頭半分高いアデイールも見下ろされたのだ。びっくりなデカさである。
「そんな上等な服着てショーンの酒場に泊ったら、他の宿泊客には目の毒だよ。訳アリなのかもしれないけど、それならより慎重にならないとね」
上手い言い方をする女だ。この宿の女将だろう。その日暮らしの連中の前に、いかにもな金を持っていると解る身なりで無防備でいるなと言うことか。
女将はがははと豪快に笑いながら階段を上がり、一番手前の部屋で立ち止まった。
「ここは一番広い部屋だよ。二間続きなんだ」
部屋のドアを開くと、そこは小さな部屋だった。椅子と衝立があり、衝立の奥はベッドだろう。狭い部屋には何故かお湯を沸かすためのコンロが備え付けられていた。
「さあ、この奥だよ」
女将が扉を開くと、成程そこには充分な広さの部屋があった。二人でも十分に眠れそうな広いベッドと、書き物机とゆったりとした椅子。
「ここで一週間。夕食は決まった時間だけど出るよ。朝が欲しいなら別料金。朝なら広場の市でいくらでも安くて美味い飯は食えるよ。どうだい?」
「市場はいいのか?」
女将の台詞にアデイールは素直な疑問を提示した。
「あははは。朝の市場に出るのは精々、かっぱらいくらいだよ。怪我なんかしやしないって」
女将はアデイールの背を力いっぱい叩く。アデイールが苦笑いを浮かべ俺を見るのにうなずいた。良い宿だ。
「女将。その条件でいい。朝はいらない。市場も楽しそうだ」
クスクス笑いながら言うアデイールに女将がにっこりと笑った。
「ふーん。結構肝は据わってるみたいだね。夕飯は八時だよ。それまでゆっくりとくつろいでくれていいよ。お湯が欲しいなら声掛けとくれ」
豪快な仕草で立ち去る女将に、俺は好感を持つ。訳アリだと知りながら、あっさりと流されてくれるのは有難い。ただ。
「嫌な感じでは無いが、あれは誤解しているな」
「訂正もしなかっただろう。まぁいいさ。部屋の中まで誰かが見ている訳でも無い」
二人の男に与えられた小部屋付きの広めの部屋。要は俺が従者役と言うところだろう。
「それにお前が元王様なのは間違いじゃない」
金糸の長めの髪と金の瞳。出会ったころには少年だったアデイールは俺がこの世界へ来た頃と同じ年ごろになっていた。俺もまた老齢に入ろうとしている。
国も安定し、跡を残す相手も得た俺たちが国を出て落ち着く場所を求めたのは、自然な流れだった。
獣へと変化するアデイールたち『一族』の寿命は短い。先進国で体に悪い生活を送ってきた俺も年を取った。いつお迎えが来ても可笑しくない。

窓を開けて、遥か向こうの峰を眺める。
そこが俺たちの祖国。山の砦のような小国。様々な国を渡り歩いたというのに、戻ってきたのはあそこが始まりの場所だったからだ。
「いっそ戻るか?」
訊ねた俺の唇がアデイールのそれで塞がれる。
「ここがいい。あの山が見える場所で、一緒に過ごそう」
縋るような瞳に、俺は深いため息を吐いた。
「すまん。もう言わない」
嘘だと知っている言葉を繰り返す。俺はきっと何度も後悔するだろう。お前に俺を選ばせたことを。
アデイールの腕が俺をしっかりと抱きとめた。二人で祖国の山を眺める。
「セイ。逃げたのは俺だ。俺がお前と二人だけでいたかった。俺の我が侭だ」
絡みつく言葉。縋りつく視線。俺を縛る何よりも確かな証に、俺は全てを委ねて力を抜いた。

いつか相手を送る、その日まで。

<おわり>

街へと住み付いた経緯の話。冬イベントの無配SSでした。

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