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どうでもいい男(ひと)<6> 

翌日、久遠は珍しく早めに出社した。元々、会社ではデカい猫を被っている所為で、早くに目覚めてはいるが、会社にはギリギリに出社している。猫を被るのに気を配るくらいなら、自分の為に朝食を作ったりランニングをしていた方がいい。
久遠が席に着くと、こそこそと隣の男と会話していた部下が振り向いた。
「おはようございます。今日は早いですね」
「おはよう。たまたま前の地下鉄に間に合ったんだ」
周囲はいつにも増して騒がしい。どうやら、昨日の朔の呼び出し理由が漸く疎い連中にまで回ってきたらしかった。
「主任、主任は知ってますか。杵築さんが昨日部長に呼び出された理由」
「いや、知らん」
上司的にはくだらない中傷と判断されたようで周知されることは無かったし、付き合いの悪い久遠に態々知らせて来る相手も無い。久遠が知っているのは朔から受けた個人的な相談の内容のみだ。
「どうやら、派遣の女の子に迫ってたらしいですよ。女の子が耐えかねて上司に相談したらしいんですが」
「くだらない。杵築の立場でか? どうするんだ。痴漢でもやってたのか」
「いや付き合えって迫ってたみたいなんですけれど。あれ?」
「部長の子飼いって訳でもない。役付きでもない。何を交換条件にするんだ?」
久遠に言われて、ご注進に及んだ部下は事態の不自然さに気付いたらしい。
「何ヶ月も我慢するような相手か」
「気が弱そうな人ですもんね、杵築さん」
人柄的にも不自然だと思ったらしく、それ以上の突っ込んだ会話も無かった。隣で噂話を聞かされていた相手も頷いている。それを見て、久遠はパソコンを立ち上げた。仕事はいくらでもある。
彼らの話が聞こえていた範囲のざわつきは収まったが、そこかしこで小声の会話は続いていた。
「おはようございます」
扉を開いて入ってきた朔を見た瞬間、会話がぴたりと止まる。内容は押して知るべしであった。気まずげに視線を逸らすもの、胡乱な視線で見るもの、気にせず挨拶を交わすものと反応は様々だ。
「おう、おはよう」
「久遠主任、おはようございます」
気にしないようにと努力をしているのは立派だが、顔つきが強張っているのが解る。あまり眠れていないのか、顔に疲れが見えた。
大丈夫かと駆け寄りたい気持ちを久遠は何とか抑えつける。
やはり、今日も誘いを掛けようと考え、久遠は意識を朔から切り離す。そうでもしなければ仕事にならないくらいに心配している自分がいた。

「顔色悪いな。眠れていないだろう」
「いえ、そんなことは」
応える朔の口調は固い。こちらと視線を合わせようとしない朔に、久遠は避けられているのかといぶかった。
エレベーターホールにはまだ人がいて、誰に聞かれるか判らない。あからさまな誘いも掛けられず、久遠はじりじりしていた。
強引にでも誘いをかければ、朔ならば付いてくるだろうと思っていたが、これは改めて久遠の性癖に引かれたかと思いいたる。ただ、このままでは朔は持たないだろうとも考えると、迷いも生じた。
「ちょっといいか。杵築」
喫煙スペースに連れ出し、詳しい話を聞こうとした久遠に朔の表情は硬いままだ。
「何があった」
「何もありません。これ以上久遠主任に迷惑は掛けられませんから」
取り付く島もない朔に、久遠はそれ以上の言葉を掛けることを諦める。歩き去る朔の背中を眺めめていると、派遣の女が軽く朔の背を叩くのが見えた。それにびっくりしたような朔が振り返る。
「あら、あの子こんな時間に何してるのよ」
派遣の労働時間はとうに終わっている。呟きつつ、久遠は火の付いていない煙草を銜えたまま、その二人の姿を眺めていた。

「う~~~ん」
口の中でもごもごと肉を咀嚼しつつ、久遠の思考は明後日の方向へと飛んでいる。去り際の朔の顔が気になるのだ。心底びっくりしたと言わんばかりの何処かおびえたような。
「考えられることはいくつかあるんだけどねぇ」
「さっきからぶつぶつ呟いて気持ち悪いな」
どうやら結構デカい声で呟いていたらしい。気味悪げに久遠を見る褌パブのマスターと目が合った。
「将ちゃん。結構頭いいわよね」
「何だ。気持ち悪いな」
癖のある笑いを閃かせるマスター・将棋に久遠は、頭に引っ掛かったちょっとした疑問を投げかけた。久遠自身、何が引っ掛かるのかが判らなかったのだ。
「復縁はあり得ないだろうな。宮を近づかせないようにしているみたいに見えるんだが」
「何か握られたかしらねぇ」
「それが一番だろう。宮とそいつが一緒にいるのを見て、何か気を回したか」
親身に聞いているとは言い難いが、投げた疑問には率直な答えが返ってくる。
「ねぇ。ちょっと試してみたいことがあるんだけど。協力してくれない?」
「あまりいいことじゃ無さそうだがな。第一、俺に何の得があるんだ?」
そういわれることは解っていたので、久遠は肩を竦めて話を打ち切った。確かに常連客ではあるが、それ以上の繋がりは無い。話を聞いてくれるのは料金の内だろうが、力を貸す謂れは無いだろう。
「面白そうだな。俺に一口噛ませろよ。この間のかわいこちゃん絡みだろ」
話を聞いていたらしい男が、久遠の背後から声を掛けて来た。常連の一人だが、誰彼構わずナンパする癖があり、要注意人物扱いだ。本人はその噂すら楽しんでいる風で、本日も真っ白な六尺褌を締めている。
「アンタだとあの子の身が危なそうなんでノーサンキュー!」
「そういうなって。珍しく宮ちゃん本気っぽいじゃん」
何処までも軽い男を、久遠はじろりと睨むだけだ。
「アンタたちの娯楽になるのは真っ平ごめんだっていったでしょ。倉田、お金ここに置くわよ」
「いやいや。そう言うなって。宮ちゃん気付いてるか? アンタの褌ここしばらく見てないぜ」
指摘されて久遠ははっと気付く。久遠自身それほど褌が好きと言う訳では無かった。鍛え上げた自分の身体を見せる相手がいないので、何となくここへ来てしまっていた。
「アラ」
思わず青くなって口元を押える。その久遠を見て、周囲の連中が天を見上げた。

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