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どうでもいい男(ひと)<7> 

久遠広宮は鍛え上げられた肉体が好きである。
躍動する筋肉の動きに魅せられ、それを写し取る写真に傾倒していろいろな試合を見に行くようになった。と、同時に何故そこまで夢中になるのか考えたとき、自分の偏った性癖に思い至ってしまったのだ。
同時に思春期から違和感を覚えていた自分の言葉にも。
それからの行動は早かった。優秀すぎる成績で地元の大学に通うかたわら、バイトでとにかく金を貯めた。卒業と同時に東京へ就職して、自分の性癖をオープンに出来る店に出入りを始めた。
若かったし、経験も足りなかった。変な男に引っ掛かったのも一度や二度ではない。そんな中で出会った褌パブは、ちょっとだけ鍛え上げた久遠の身体を自慢するにも、同好の士と出会うにしても絶好の場だったのだ。
褌がさして好きではない。社会から隔絶された場での解放としての褌であった筈だ。
「ああ。そうね」
朔の前では自然でいられる。最初こそ驚いていたけれど、朔は嫌悪も拒否もすることがない。それどころか、男言葉の久遠の方に違和感を持っているようだった。
「あの子の前だとそんなことしなくても良かったんだわ」
あまりにそのままの姿でいられるから。
「だろ。ちょっとくらい力になってやろうと思ったんだぜ」
「ふうん。で、いくら賭けてんのよ」
褌姿の男の鳩尾を強く指で押す。痛みで男が仰け反った。
「申し訳ない。宮ちゃんとあの子が続く方に一万」
「一万。他は?」
じろりと周囲を見回すと、悪びれずに手を上げた連中が数人。
「俺たちは続かない方に各五千」
久遠は呆れると同時に納得した。酒場での賭けなどそんなもの。その場のノリである。
「じゃあ、アンタ続く方に十万掛けなさいよ」
「おいおい、俺の稼ぎ半分持ってかれる」
抗議を申し出る男を久遠は鼻で笑った。
「そのくらいしないと本気にならないでしょ。絶対に手助けしなさいよ」
久遠の言葉に男は口を開けたままだ。
「え? 宮ちゃん本気?」
「本気も本気よ。マジで落とすわ。アタシの考え通りなら絶対に向こうも気がある筈よ」
多分間違いない。恋愛云々はともかく、好意はマックスの筈だ。
これがもっと性質のいい女であれば話は違ったが、あの女では最低クラス。しかも、会社の連中は被害者面の女の話を素直に信じる馬鹿揃いときては。
「杵築。覚悟しなさいよ」
久遠が低く呟いた。

「あら」
お洒落で瀟洒な造りの表通りのカフェは、いつも数分は並んで入るような人気店だ。お値段も少々高めではあるが、その金額の分贅沢な気分が味わえるのが女は気に入っている。
その店に入ってきた似合わない感じの男二人に、女は見覚えがあった。
奥の喫煙席を選んで座った男たちの顔は女からでは見えないが、きちんとすればもっと見栄えがするだろう背の高い男は、どこかルーズな感じのスーツを着ている。
隣の課の主任はあまり女の好みではない。何処かキツイ感じで甘やかしてくれそうな要素が無かった。
しかも、この間からやたら朔の方を持つのだ。大抵の男はこっちが泣きつけばこちらの言うことを聞いてくれる。美人というよりもふんわりとした可愛らしさは男が守ってやりたくなるような風情を醸し出していたし、嘘をついていると思われることも少なかった。
先輩女性にも一生懸命頑張ってますという装いを忘れなかったし、正社員よりも派遣で適当に勤めていく方がお得だと感じていたのだ。責任が掛かる仕事なんて御免である。
彼氏は付き合うにはいいけれど、結婚を決めるにはちょっと頼りない。朔は正社員ではあるが出世にそんなに目の色を変えてもいないし、あの会社はそんなに給料は悪くない。辞めた後もキープしておきたかったのに、結婚前提の付き合いを断ったくらいであんなに冷たくなるなんて思わなかった。
女としては番狂わせもいいところである。
あまりに悔しかったので、ホモだって言いふらすと脅した。それであっさりと折れた朔に女は拍子抜けだ。
でも、こんなところに二人揃って入るなんて、本当に?
女は何処までも偏見の塊で狭量だった。世にスイーツ男子などと呼ばれるものがいると知識では知っていても、男二人でお高いカフェでケーキなどあり得ないと思っている。男性がカフェに来るのは女性の付き添いに決まっている。女はすっかりと自分のことを遠くの棚に上げていた。誰が好き好んで偏見で笑われると解っていることを言うだろうか、言う訳がない。
喫煙室には他に客は存在せず、ウェイトレスが運んでいったパフェはあの男二人で食べるに違いなかった。
首を伸ばして覗き込むと、男たちは二人で二つのパフェをシェアしているようだ。友人同士でも仲が良ければ普通にやる行為だが、女の頭は偏見で凝り固まっており、どうしても同性愛者だと決めつけたいのだから、始末に悪い。
こっそりと写真を撮った。スマホのシャッター音は意外と大きく、店員に注意されてしまう。周囲の客が笑っているような気がして、女はそそくさと店を出た。
「行ったぞ」
「あんまりじろじろ見るのは止めろ。気付かれたらどうする」
女が立ち上がり出て行った背を見送り、男は久遠の陰からひょっこりと顔を出す。
「大丈夫だろ。鈍そうな女じゃん。腐った女子に目を付けられそうな行動したし、ああいうのは一度思い込んだら他には目は向けないからさ。じゃ、ここ宮ちゃんのおごりね」
「よくそんな胸やけのしそうなものいくつも食えるな」
久遠がげんなりした声を上げた。甘いものは嫌いじゃないが、さすがにパフェ二つをぺろりと平らげるのを目の前で見せられるとぐったりと脱力してしまう。
「で、後は?」
「駅前の大型電化製品売り場だ」
「ふん。本格的に罠仕掛ける気なんだ」
はっきりと言い切った久遠に、男が人の悪い笑いを浮かべた。当たり前だ。そのまま放置する気など無い。おそらく何らかの手段で朔に脅しを掛けているのだろう女に同情の余地などある訳も無かった。
そしてこういう女の常として目の前にぶら下げたネタに食いついて来ない訳は無いのだ。

数日後には久遠はすっかりと周りから距離を置かれるようになっていた。どころか、部下に話しかけようとすると逃げを打たれる始末だ。もちろん、まったく変化のないものもいるが、数は少ない。
「止めが利きすぎたかな」
ぼそりと呟いた久遠を気に留める人間は皆無だ。さすがに様子が可笑しいのに気づいたか、朔からは心配そうな視線を投げかけられる。
それに久遠は心配するなと手を振った。朔の顔がちょっとだけ緩んだのが解る。さすがに自分一人で抱え込むのも限界だろう。あまり顔色が良くない。
「久遠。部長がお呼びだ」
「はい」
振り返ると女がクスリと笑っているのが見えた。まったくもって質の悪い女だ。勝ち誇ったような笑みを見やって久遠は立ち上がる。
「これ以上好き勝手されても困るわね」
口の中の呟きは久遠の中での戦闘開始の合図だった。
「久遠主任。君がいかがわしい店へ出入りしていると報告があってね。こういうことが漏れては困るんだよ。もちろん、本人の趣味に口を出す気は無いが」
要するに下請けへの移動をチラつかせた事実上の首宣言だ。
「はあ。何がでしょうか」
「いくら何でも、出会い系のような店は人の口に上りやすい。解るだろう」
「出会い系ですか」
会員制のふんどしパブ程度で如何わしいか。ホントの出会い系の実態なんぞ知ったら卒倒しそうだと久遠は心の中で突っ込みを入れた。
「趣味は社交ダンスですが。最近はじめまして」
「社交、ダンス?」
目の前の部長の間抜け面に噴出さなかったのを褒めて欲しいくらいだ。久遠は腹に力を入れた。

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