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どうでもいい男(ひと)<9> 

「久遠主任。すみません、あの俺じゃ役にたちませんか?」
「何に?」
半ば予想の付いた言葉を、いかにも知らぬげに久遠は恍けて見せる。カウンターで手の中のグラスを弄びつつ、それでも硬い決意を覗かせる視線を向ける朔に罪悪感を煽られるが、そうでもしなければ朔が現れなかっただろうとも確信している。
女の脅しに屈したのは、自分が大事だからではなく、久遠を思っての事だろうと簡単に推察は付いた。そうすると脅しのネタもお察しである。
そうやって朔自身を犠牲にしても、久遠を守ってくれると言うのなら、それは最大限の好意だろう。すり替えることは出来る筈だ。
だが、距離を取っている朔を近づけさせるにはどうする。簡単なことだ。久遠の窮状をチラつかせればいい。
「あの、アリスちゃんは」
小声で久遠に呼びかけ、視線で店を見回す。
「大丈夫よ。奥で休んでるわ」
「そうですか。あの、本当に俺にも出来ることって」
明らかにほっとしたため息を漏らす朔の勘違いに、周囲の悪い男たちはそっと目を見交わした。さすがにちょっと胸が痛い。
「もう片付いたから大丈夫よぉ」
明るい声を出しつつも、周囲のさっさと消えろと言わんばかりの視線に急かされる。
「俺じゃ頼りになりませんよね」
「そう言う訳じゃないわよ。アタシが危ない目に合って欲しくないの」
あまりにも落ち込む朔に慌てたのと、罪悪感マックスの周囲に急かされるのとで、久遠はらしくもなく焦っていた。するりと出た本音に朔の瞳が見開かれる。
「え?」
しまったと口を押えるが、出た言葉は戻らない。
「もう鈍すぎるのもいい加減にしてちょうだい。アタシが嫌なのよ。危ないことをされるのも距離置かれるのも」
ここまで来たらもう自棄だ。もっと上手く立ち回って騙すつもりだったのにと久遠はほぞを噛んだ。自分で段取りをぶち壊したことに、めまいがする。
「いやいや、宮ちゃんはアンタの為に一芝居打ったんだぜ。自分がゲイだって会社にばれてもいいって」
唖然とした朔に久遠の横合いから声が掛かった。朔も覚えている。確か最初にこの店に来た時に声を掛けて来た男だ。だが、今の問題はそれではない。
「一芝居? どういうことですか久遠主任」
「写真撮ってたの、あの女ッ」
久遠は我に返って余計な真似をする男の口を塞いだが、当然間に合う筈もない。一方の男は給与の半分近くをカップル成立に賭けているのだ。必死である。
「写真? あの女?」
考え込まねば解らない程には朔も馬鹿ではない。一度悪意を持ったならば、どこまでも潰しにかかる人間がいることくらいは知っている。
「主任。俺の為、ですか」
「違うわよ。アタシの為よ。アタシがあんな女に好き勝手させたくなかっただけ」
おずおずと尋ねる朔に、久遠は吐き捨てた。どこまでも醜いエゴでしかない。朔の為じゃない。朔と一緒にいるのに邪魔な女を排除しただけだ。
「主、任」
口籠る朔の中でいろいろな感情が交差していた。謀を巡らせてまで守られた情けなさ、会社において不利なことを暴露させてしまった後悔、そしてそうまでしてくれた感謝。
「はいはい。見つめ合うんなら、ここじゃなくて場所変えてくれよ」
割って入ったマスターの声に、呆然としたままお互いを見つめていた状況に気付いて、朔は真っ赤になった。
「せっかくいいとこだったのに。仕方ないわねぇ」
クスリと久遠が笑い掛ける。それは何処か悪戯を思いついたような顔だ。久遠が懐から財布を出そうとするのを、朔は押しとどめて支払いをする。
「悪いわね」
「このぐらいさせてください」
二人してぎこちない笑いを交わしつつ、店を後にした。
無言で先を歩く久遠の後ろを朔が追う。背中を見つつ考えるのは久遠の事ばかりだ。女言葉も違和感があったのは最初だけで、その方が自然なのだろうと思えば納得できた。寂しかったのかもと零した横顔。こちらを何処までも甘やかす雰囲気に、逆に甘えてはいけないとブレーキを掛けた。
愚痴を聞いてくれて、優しくしてくれる。どんな時でも味方になってくれる。そんな久遠を『都合のいい男』にしてはいないだろうか。
「どうした?」
振り向いた久遠に朔は戸惑った。まさか貴方のことを考えていたとは言いづらい。
「いえ。何でもないです」
「そうか」
男言葉の時の久遠は普段の饒舌さはなりを潜める。地が出ることを避けているのもあるのだろう。
「じゃあまた明日」
「え?」
軽く手を上げた久遠に、朔は思わず声を上げてしまった。
「また明日、だ」
てっきり久遠の家へと行くつもりでいた朔には拍子抜けだ。ロクな説明すらない。
「明日までしっかり考えて。アタシだってあんまり気は長い方じゃないのよ。どういう意味か解るでしょ」
すれ違い様に囁かれる言葉には、ほんの少しの甘さがある。
朔はそのまま硬直してしまい、気付くとすでに久遠はいなかった。
「どういう意味かって、それぐらい解りますよ。いくら何でも子供じゃあるまいし」
好意だけでここまで親身になってくれると思えるほどおめでたくは無い。しかも、相手は同性を恋愛対象にしているとあっては。
「いいお友達でいましょうね、か」
あの日、プロポーズした女に言われた言葉。なんて薄っぺらい台詞だろう。本気で告白した相手への思いやりも何もない。
いい女のフリをした自己保身のための言葉だ。
「居心地のいいだけの関係なんかクソくらえ」
都合のいい人になんかしない。どうでもいい人になんかならない。
「主任」
優しい嘘には騙されるものか。そっと呟いた朔の決意は決まっていた。

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