スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
*Edit TB(-) | CO(-) 


Working Dandy<5>番外編 

「ねぇ。有働くんって、バスケットの選手だったってホント?」
俺に話しかけてきたのは、一週間前から入ったワゴン販売の女の子だった。
「はぁ」
つい気の無い返事をしてしまったのには、訳がある。
正直、どう応えていいのか良く分からないと云うのが本当のところだ。
確かに、俺はバスケットの選手だったけど、それはまったく過去の栄光ってやつで、数年前に肩を壊してからは、スポーツとは無縁の生活を送っている。
「何? 有紀ちゃん。有働に興味あるワケ?」
「え~、だってカッコイイじゃん。背だってすごく高いし、イケメンだし、合コンとか付き合ってくれないかなぁ……」
「へ?」
そんなこと初めて云われた。インハイで優勝した時だって、誰からも告られたことなんか無い。
他のチームメイトは適当に付き合っていたから、俺はきっと女の子にとって魅力的じゃ無いんだろうと思っていた。
「もしかして、云われたこと無い?」
「う、うん。俺、全然モテ無かったし……」
「付き合ってる娘がいるって思われてたんじゃん。キミみたいなイケメンに彼女がいないなんてフツー思わないもん」
イケメンねぇ。俺に対して使われたとは思えない単語だ。
「どう? 今日これからでも」
「いえ、約束があるんで。すいません」
着替えながら、身を乗り出してくる有紀さんに、俺はちょっと引いてしまう。やっぱり、少し女の子は苦手だ。
「約束って、またハルさんかよ?」
呆れたように笠松が云った。
「うん。じゃ、また」
笠松が心配してくれているのは判っている。
俺は大学を中退して、この駅前のパチンコ屋に勤めたし、バスケット一色だった俺にはバイトなんかも経験が無い。はっきり云って、大学のOBであるハルさんの口ぞえが無ければ、このホールだって、勤められたかどうかも怪しい。
笠松は本当は、俺とはすれ違いになる時間帯の勤務だが、偶然一緒になった時に、数年も勤めた俺が、一向に慣れる気配の無いのを心配して、一緒の時間帯に変えてくれた。
おかげで、先輩社員からは教わることの無かった、客あしらいやらがようやっと身に付きつつある。


店を出た俺が向かったのは、私鉄で十分程先のターミナル駅だ。
珍しく、待ち合わせをしようなどと云われて、ちょっとだけウキウキしている。
待ち合わせの場所は、駅前の時計塔の下だ。見回すまでも無く、すぐに判った。
平均より少しだけ低い身長は、人ごみで埋もれてもおかしくは無いのに、俺にはいつでもその相手を見付けることが出来る。
すらりとした体躯に、そこらの女より可愛らしい顔。
俺はまっすぐに相手に駆け寄った。
いつもの青灰色の作業服姿ではない。ジャケットに細身のパンツ姿だ。この人がハルさんこと、春香さん。俺の彼氏?だ。
「ウド。何だ、そんなに走って」
「だって、待たせちゃったし」
最近では敬語は使わなくなっている。春香さんが嫌がったからだ。
「ホントに可愛いな。お前は」
春香さんはにっこりと俺に笑い掛ける。俺は途端に自分が真っ赤になったのを感じた。
どうも、春香さんに微笑まれると弱い。心臓がばくばくして何も考えられなくなる。
「ほら」
春香さんに差し出された切符は横浜までのものだ。
「メシ食いに行くぞ」
そう云って、春香さんがきびすを返すと、春香さんの後を追っていく視線が分かった。
当たり前だ。少し身長は低いけど、春香さんは可愛いだけじゃなくて、男らしいし、すらりとした体躯は、全身がばねのような筋肉に覆われていて、動いている姿はまるで猫科の猛獣のしなやかな動きを連想させる。
そんな素敵でカッコイイ春香さんを、女の子たちが放っておく筈が無い。視線がずっと追いかけてきて、俺は『見るな』と云いたい衝動に駆られた。
改札をくぐると、そこに丁度列車が入ってくる。帰宅時間のホームにはまだ結構な人数がいた。
俺は春香さんを護るように、春香さんの前に立つ。だが、列車から出てきた大勢のサラリーマンに押されて、ちょっと流されそうだ。階段近くにいたので、思わず転げ落ちそうになる俺を、春香さんが掴んで引き戻した。
ほっと息を吐くと、今度は後ろからどっと押される。押されたまま、列車に乗り込むが、そのまま、奥へ流されてしまった。
反対側のドアに押し付けられて息も出来ないでいる俺を、後ろから春香さんが支えてくれる。
俺は情けなさに泣きそうだった。
いつも、こうだ。俺は春香さんを守りたいのに。
どーんと落ち込んでいると、俺の背中に密着してくる身体がある。
満員に近い車内だし、俺の後ろは春香さんなので、別に気にも留めなかった。
ところが、後ろから伸びてきた手が、俺の股間を撫で始めるに至って、俺は密着しているのが、痴漢だと気が付いた。
ゆっくりと股の内側を撫で擦られる。手の感触は明らかにごつごつした男のものだ。
俺はがっくりと肩を落とした。
何故に俺? 車内には可愛い女の子もいるし、男が好きならぴちぴちの(さすがに死語か?)男子高校生もいるじゃないか。可愛い春香さんも……。
そこまで考えて、春香さんはどうしているんだろうと思い立った。やばいよ。俺なんかより春香さんが危ないって。
俺は必死で振り返ろうとするが、この男は意外と力が強くて、手を振り払うことが出来ない。
太股と股間の間を、男の手が往復している。
腕をつかんだが、それも意に介さないくらいの力だ。
無駄な抵抗を続けていると、焦れたらしい男が俺を躯ごとドアに押し付ける。
足の間に擦り付けられるものが、堅くなった男の股間だって云うのは、ジーンズの布越しでも、しっかりと判った。
人より無駄に身長の高い俺は、頭一つ分は上に出ている。おかしな表情をすれば、周りにはばればれだっただろうから、ドアに押し付けられたことは、不幸中の幸いだった。
背中に当たる男の息が荒くなっているのに、俺はぞっとした。
泣きそうになって春香さんの姿を探す。
でも躯ごと抑え付けられて、身動きも出来なかった。
「本気で怯えてる?」
背中越しに、かろうじて聞き取れるくらいの声で、小さく囁かれたのは春香さんの声だ。
「横浜~、横浜~」
到着のアナウンスが車内に響いたのと同時に、俺が押し付けられていたドアが開き、俺と春香さんはもつれ合ったまま、ホームへ放り出された。
もっとも、背の高い俺の背中に春香さんが張り付いている様子は、じゃれあってるようにしか見えないだろうけど。
「痴漢プレイ、だ。感じたか?」
「春香さん…」
俺はきっと引きつった顔をしていたと思う。本気で怖かったんだからな。
そうこうするうちに、次の電車がホームに到着した。ところが、春香さんは俺の手をとって電車に引きずり込む。
「え?」
横浜の港のビアホールに連れてってくれる筈じゃ……。
「日の出町まで行くぞ」
「何で?」
「お前が悪い。あの辺のラブホ入るぞ」
いきなりですか? 食事も無し? ねぇ、春香さ~~~ん。
こんな男に高校生の頃から惚れてた俺って……。
悲しいやら、空しいやら。俺はもう好きにしてくれと、肩を落とした。


<おわり>

トリックオアトリート

面白かったと思ったら、クリックしてくださると励みになります。

BL小説ランキング
FC2 Blog Ranking

完結小説一覧

スポンサーサイト
*Edit TB(-) | CO(0)


~ Comment ~















管理者にだけ表示を許可する


Back      Next

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。