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メガネの向こう<7>完 

ゆっくりと杏に体重を掛ける。重くは無いようだ。押さえ込んで抵抗を封じた。
「ん…ッ」
息が苦しいのが、杏が身じろぐ。
だが、康利には離してやる気は無かった。きっと杏には、まったくと云っていいぐらい経験は無いだろう。そんなことは傍で見てきた康利が一番よく知っている。
今、自分の腕の中にいるのが、杏だとは信じられなくて、康利は確認をするように、いくつも痕を残した。これは自分のものだと云う自己主張。


*これより先15禁。ご承知の上、お進みください。

「あんず」
前をはだけ、スーツを取り去って行く。半ば、宙に浮かんだような視線で康利を見る杏は、妙に扇情的だ。
「杏?」
確認をするような康利の呼びかけに、杏は我に返ったかのように、前を掻き合わせる。
「嫌か?」
康利は半ば、傷ついた表情で杏に問いかけた。何しろ男同士だ。いざとなって嫌だと云われても、仕方が無い。
「違うよッ! 嫌じゃないけど……」
杏の叫びは、半ばで口の中に消えてしまった。下を向いた杏は、真っ赤になった顔で、それでも口の中で何かを呟いている。
「杏?」
「嫌じゃないけど、恥ずかしいよ!」
もう一度呼びかけると、顔を上げた杏は、まるで喧嘩を売るような口調で口を尖らせた。
「恥ずかしいのか」
「当たり前じゃないか。やっちゃんに、全部見られて、俺………」
また、だんだんと声が小さくなっていく。顔を逸らしてうつむく杏は、掻き合わせたYシャツの前を力いっぱい握り締めていた。
握り締めた指に、康利はキスを落とす。そのまま、指に舌を絡めた。
「や、やっちゃん?」
「ここも、感じるの知らないだろ?」
指と指の間に丁寧に舌を這わせる。その度に杏の躯がぴくりと震えた。
まとわり付いていたシャツを剥ぎ取り、やっと康利は杏のそのまんまの姿を眼にすることが出来た。
足を抱えあげるようにして、キスを落とす。付け根のぎりぎりのところを攻め立てると、杏が恨めしそうな視線を送ってくる。康利は肝心の部分には触れないままだからだ。
「杏。いいか?」
これが限界だ。これ以上進めば、どんなに杏が嫌がろうと止める自信は康利には無い。
杏がこくりとうなずく。それを確認して、康利は杏自身と、その奥に手を伸ばした。



「う…ん?」
寮住まいになって、数ヶ月。眠り慣れた筈のベッドがやけに狭苦しい。
大多数が男の仮住まいの部屋には、カーテンすら付いていない。その窓から、朝の光がさんさんと差し込んでいた。
時計を確認するために、まず、メガネを探す。手探りで枕元のメガネケースを探るが、むき出しのままの、フレームに手が触れて、康利は首を捻った。
置きっぱなしにした覚えは無い。
疑問に思いながらも、康利はメガネを掛ける。が、度のあまりの強さにくらくらした。
ぼんやりとした焦点でも、手にした感触で形は判る。いつもの細身の縁の付いた自分の物では無い。フレームレスの大き目の丸メガネ。
それが誰のものかを思い出した瞬間に、康利は飛び上がっていた。
ベッドが狭苦しい筈だ。自分の隣には、別の人間の体温が寄り添っている。
康利は軽いパニックに陥り、とにかく自分の目で確認したくて、ベッドレストに置いてある筈のメガネケースを手繰った。
裸の男が手探りで枕もとのメガネを探しているのは、どこから見ても漫才のようだが、本人はいたって大真面目だ。
やっとのことでメガネケースを探り当てて、掛ける。取り出すのももどかしかったくらいだ。
隣に眠っているのは、昨日確かに抱いた筈の杏で、康利はほっと胸を撫で下ろした。
熟睡している杏の口唇に、そっと唇を落とす。
その気配に目を覚ましたらしい杏は、きょとんとしていた。どうやら、どんな状態か寝起きの頭では判別がつかないらしい。
身体を起こすと、ごそごそと枕元を探り始める。どうやら、杏はベッドレストにはメガネを置かないらしい。枕の周辺をひたすら手で探っている。
その仕草は可愛かったが、いつまでも眺めている訳にはいかない。
康利がメガネを手渡すと、ぼーっとしたまま受け取って、掛ける。
やがて、焦点があってきたのだろう。むくりと立ち上がると、すたすたとユニットバスへと向かった。
ユニットバスの扉がばたんと閉まったか思うと、すぐに、もう一度扉が開く。
そこには杏が、真っ赤になって立ち尽くしていた。
「やっちゃん、俺。ホントにやっちゃんと?」
「うん。杏」
素っ裸で立ち尽くす杏の身体には、康利の残した痕がいくつも残っていた。朝から刺激的な眺めだ。杏の躯は、男であるにも係わらず、柔らかだった。思わず、繋がっていた間の杏の可愛い声も同時に思い出して、康利は納まりがつかなくなる。

と、その時呼び出しベルが鳴った。
今日は土日で出勤したために、全員が代休だ。
康利は、改めて時計に目を走らせる。
8時過ぎ。約束なしに尋ねてくるやからの心当たりは無い。
「杏。ベッドの中にいろ。風邪を引く」
いくら夏とは云え、クーラーの入った部屋に、裸のままいさせる訳にはいかない。
杏は走ってベッドにもぐりこんだ。
ジーンズを穿いて、ドアを開ける。
そこには鈴木と、その後ろに立っている大柄な男がいた。昨日、鈴木が部屋へ連れ込んだ相手だ。
「すまん。朝早くに。もしかして、邪魔したか?」
「いえ」
言葉少なにそう云ってはみたものの、康利の態度は明らかに不機嫌だった。
「すまんな。こいつが帰るって云うから、謝らせようと思って」
だが、鈴木は康利の態度から、察しを付けたようで、さっさと用事を済ませようと云う態度がありありと出ている。
「チッ、ちょっと若い子の尻に触っただけだろう」
不満そうに鈴木に文句を云う姿は、無精ひげ姿ではあるが、スーツの似合う大人の男で、かなりハイレベルの男だった。ただし、セクハラ親父でなければ。
「渥美部長?」
康利に呼びかけられて、にやりと笑った男は、まさしく渥美その人だ。
「痛たたた…ッ」
その渥美の耳を鈴木が思いっきり横から引っ張る。
「俺は謝れって云ったよなぁ?」
引っ張った耳元で、鈴木が思いっきり恫喝する。いつも飄々としている鈴木だが、今日の恫喝は結構迫力がある。
「判ったって。悪かった。2度としない」
耳を引かれながら、叫ぶように云った渥美に、ようやく、鈴木が手を放す。
「いいかな?」
「いえ、俺は2度とやらないでくれれば、それでOKです。それより」
顔を伺うように、鈴木が聞いてくるが、気になるのはまったく別のことだ。
「葛西なら、俺は端ッから手を出す気は無いぞ。好みとは違うしな」
「じゃ…」
「小早川なら、勝手に躍らせとけ。定年になるまで何を夢見ようが本人の自由だ」
確かに云われる通りだと、康利は納得した。
「ホテルでもセッティングされない限りは、勝手にさせておくさ。むしろやってくれれば、追い出す理由も出来るんだが。もちろん、そこには葛西じゃなくて、笠置の方がいいけどな」
耳元で囁かれて、鳥肌がたつ。途端に、鈴木の手が横から伸びた。
「いー加減にしろよ」
耳を引いてそう云うと、鈴木はむっとした顔で歩き出す。その後ろを渥美部長が泡を食って追いかけていった。
「何? 誰だった?」
タオルケットを被っていた杏が、そっと顔を出す。
「渥美部長と鈴木さん。昨日の礼だって」
「ふぅん。ね、あの二人さ」
「多分、そうだろうな」
あの様子では大分尻に敷かれていると見た。自分たちもああなるのだろうか。康利はくすくすと笑いがこみ上げてくるのを感じる。
「な、杏」
「うん」
ゆっくりと杏をベッドに押し倒した。
とりあえず、今朝はまだ甘い時間を楽しむときだ。


<おわり>

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