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水竜の騎士<4> 

「リベア様。お目覚めですか?」
ドアがノックされて、マーロウの少年らしい顔が覗く。
「今朝はお早いんですね。夕べは父を送ってくださったと聞きましたが」
ドアを開けて、入ってきたマーロウの手には湯の入った桶と、新しい布と薬草が握られていた。
目の前のソルフェースは、まったく見えていないらしく、改めてリベアはソルフェースの魔術に舌を巻く。
そのまま、マーロウの開けた扉に、ソルフェースは身体を滑り込ませた。
寸前に、唇が「またな」と形作るのを、リベアは苦笑いで見送った。

「薬草はいい。無駄にするな」
リベアがマーロウに向き直る。マーロウは、軽く目を見張った。当たり前だろう、いくら掠めただけとは云え、刀傷―――しかも、バースの厚刃の剣で付けられた傷が、翌日にはもう跡を残すだけ等とは、あり得ない事態だ。
「リベア様……、これは」
絶句するマーロウに、リベアは己の指に嵌った古い意匠の指輪をかざす。自分のような学の無い田舎者ならともかく、代々の近衛騎士の家柄で、王家にも所縁の家柄の出のマーロウならば、これが魔術師との契約の印で有ることは知っている筈だ。
「そういうことだ」
「結界。こんなさりげなく?」
マーロウが唖然と口の中で疑問を呈するのに、リベアがうなづく。
攻撃を跳ね返す結界と云うのは、魔術師なら誰でも作れるのが普通だ。だが、それは硬い楯が一枚存在するようなもので、誰にでもそこにあるのが感じ取れてしまう。
完全な結界とは、存在を感じさせず、なのに魔の気配のするものは中に入れないと云う、さりげなさを以って良しとされる。
「すごい。やはり、貴方はすごい方だ。こんな結界を張れる魔術師に見込まれて契約をなさっているなんて」
見込まれてという云い方に、リベアは複雑な顔になった。
確かに見込まれたには違いない。どっちかと云えば、魔王に見込まれた姫というか、いや、それは自分で想像して、ゲッとなったので、蛇に睨まれた蛙というか。そういう類だろう。
「身体を拭きたいんだ。もう一つ、桶を持ってきてくれ」
「湯浴みなさいますか? 用意を致しますが」
云いながら、マーロウが鼻を鳴らした。夕べはかなり呑んでいたから酒くさいのだろうか。
そうリベアは考えたが、この塔の半数以上の人間が、今日は酔っ払いなのだから、今更だ。
「いや、桶でいい。冷たい水を頼む」
それに、今から湯の用意をこんな子供にさせる気など無い。
今夜にでも浴場へ足を運べば済むことだ。
リベアは、マーロウが下がったのを潮に、朝の後始末の為に、湯桶に手を伸ばした。


「リベア」
食堂で声を掛けてきたのは、近衛騎士団の一人だ。
以前から、比較的友好的だった連中の一人である。リベアはおぼろげな記憶の中から、目の前の男の名を探った。
「ブラスト」
ブラスト曰く没落貴族の出らしい。『お前や俺みたいな貧乏人は出世するとやっかまれるに決まっている』と以前から親切だか、余計な世話だが判らない忠告をくれた男だ。
「お前、夕べは俺んトコの隊長送ってきたんじゃなかったっけ?」
意外そうに云われて、リベアは首を捻る。
「押し付けたのはお前だろう。ちゃんと居室まで送り届けたぞ。バース隊長がどうかしたのか?」
あの後、若い連中は妓館へ行くと騒いでいた筈だ。リベアも誘われたが、浮気などしようものなら、あの魔術師はどんな難癖をつけてくるか分からない。危うきには近寄らないリベアは謹んで辞退した。
「じゃ、その後か。お前もスキモノだな。それとも、別のオンナでもいるのか?」
肩を抱きこまれて囁くように云われたが、リベアにはまったく意味が分からない。
「お前、オンナ臭ぇぞ。妙にたるそうだし、何処で楽しんできた?」
そこまで云われて初めて、リベアは自分の身体から妓館の女の使う香油の香がするのだと気付いた。
『オンナ』臭いと云う言葉が、妙に侮蔑をもって発されたのも、化粧の移り香では無く、多くの男を受け入れるための香油の香がするということなのだろう。
マーロウが湯浴みをするかと聞いた訳だ。
もちろん、ブラストは何処かの街娼でも買ったと思っているようだし、マーロウも同じように思ったのだろう。まさか自分の尊敬する騎士が、居室で男と楽しんだとは思ってもいない筈だ。
「酔っていたんだ。覚えて無い」
頭は半分真っ白だ。ソルフェースへの怒りと、自分の迂闊さへの怒りがない交ぜになっている。
「リベア、気をつけろよ。それでなくても、足を引っ張りたがっている奴がいるんだ。やたらなことはやるな」
リベアの淡々とした答えに、拍子抜けしたらしいブラストは忠告だけを囁いてリベアのそばを離れた。


それでも、何とか食事を終えて、リベアは修練場に向かう。こんな時には、頭を真っ白にして、剣を振るうのが一番だ。
修練場には、バースの姿がある。
鍛え上げた体躯は今日も健在だ。
浴びるようにという表現が相応しい程、意識がなくなるまで呑んだ筈だが、そう堪えてもいないようで、すぐにリベアを相手に一戦となる。
さすがに明け方まで貪られた身体は、足元が覚束無い。長いこと打ち合った末に、今日はリベアの負けとなった。
酔いの所為だとでも思っているのか、バースはまた明日もと云い出す。
「もちろんです」
とリベアは応えた。隊長クラスが毎日相手をしてくれるなぞと云うのは、めったにあることでは無い。
その後は、我も我もとリベアとの手合わせを申し込んでくる有様で、リベアは思う存分、何も考えずに、夕方まで剣を振るうことが出来た。


近衛騎士団は、由緒こそ正しい家柄の連中が多いが、腕自慢も多く、リベアの腕前が自分の隊長と張る程だと知ると、あっと云う間に一目置かれた。どころか、一月もするとリベアのシンパまで出来るような状態である。
問題は、第一騎士団の連中なのだが、完全にリベアは浮いていた。
魔物退治を旨とする第一騎士団には、育ちが良いだけでは無く、幼い頃から魔術や魔物についての教育を受けてきたものも少なくない。
このティアンナはここ何十年も魔術師の庇護の下に置かれ、大規模な戦闘と云えば、辺境の魔物相手のものばかりなのだ。
ゆえに、近衛騎士団など、王の傍で形骸と化した警護を行う体力馬鹿ども。と頭から決め付けている。
ティアンナを護るのは自分たちのみだと考えているのだ。
リベアが近衛騎士団に近づけば近づくほど、リベアとの間に距離を置こうと図る。
誰も追及はしてこないが、リベアの指輪も一因となっているらしい。とはマーロウが教えてくれた。
プライドの高い貴族の子弟ばかりのここで、選りによって『守護の魔術師』が選んだのが、国境騎士団の中でも、特に卑しい身分のリベアであったことが、いたくお気に召さないらしい。
しかも『魔封じの剣』も選んだ騎士と来ては、彼らのプライドはぼろぼろだ。
もちろん、そんな連中ばかりと云う訳ではないにしろ、その先鋒が副隊長のラフ・シフディとあっては、逆らうのも怖いということらしい。
何しろ、ラフの祖父は王の側近中の側近だ。触らぬ神になんとやら。ひたすら、ラフの云うことにうなづくしか出来ないのだろう。
リベアは自分にも覚えのあることなので、同情するしか無い。
ひたすら、嫌味たっぷりの言い種を聞き流すだけだ。
自分が優遇されていることは事実だし、自分でも過ぎた待遇だと思っているので、いくら云われても腹も立たない。本当の事だ。
躯で蒼の魔術師を誑し込んだと云われても、仕方が無いと思っている。
幸い、相手がソルフェースだとは思ってもいないらしく、そんなうわさも立ちようが無かったが……。


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