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雨に濡れても<3> 

そうして一年が過ぎるころ、また桜の季節がやってくる。
満開になろうとすると雨が桜を散らしていくのは、何故なのだろう。
仕事は順調とはいかないまでも、不況の中でも何とか好調で、週末ごとの篤志の訪れも途切れることは無い。
だが、春の雨が桜の花びらを散らすたびに、俊司は落ち着きを無くしていった。


「あら、久しぶりじゃない? ずいぶんお見限りだったけど、どうしたの?」
ほぼ一年ぶりに顔を見せた俊司に、常連のオネェが声を掛ける。
「俊さんも落ち着いたっていう話だったのに」
「別に、落ち着いた訳じゃないよ。貧乏暇なしって奴で」
暗にいい人でも出来たかと匂わせる相手に、そんなのじゃないと否定した。
そう、樋川篤志はどんなに慕ってくれたとしても、ただの会社の部下だ。恋人じゃないし、せいぜいがとこ年の離れた友人と云うところだろう。
 その相手に、ここまで囚われていることに俊司はうんざりとなってしまった。
「ねぇ、隣。いいかい?」
「いいよ」
俊司は声を掛けてきた若い男に即座にうなずく。
「奢らせてくれる?」
「こんなオジサンで良ければ、ね」
後腐れの無いセックスの予感。そこそこの顔とテクニックさえあればどうでも良かった。俊司曰くの『鶏がらの様な躯』に欲情してくれる男なら誰でもいい。
心だけでもいいなんて云うおためごかしは今夜は要らない。人肌が恋しかった。
「ねぇ、俺でもいい?」
囁く声にうなずいた。


露悪的な気分でアパートへ向かう。
週末の夜だ。篤志が待っているかもしれないが、そのときはその時だと考えた後に否定した。
約束もしないで、飲みに出た後だ。よしんば待っていたとしても、既に相当な時間が経過している。
篤志が待ちぼうけを食らわされても待っている価値があるなどと、俊司はうぬぼれてはいなかった。
タクシーを降りると、小走りで階段下に走りこむ。雨はまだ降り続いている。
鍵を開けて男を振り返ると、男は俊司の顎を捕らえて不意打ちのキスを交わした。若い男の衝動的ないたずらを、俊司は受け止めるに任せる。

「主任――――」

低く響くような声には聞き覚えがあった。いつもとは調子のちがうそれに、俊司はぎくりとして振り返る。
「樋川」
「ずいぶん遅かったんですね。待ちくたびれましたよ」
睨み付けるように、篤志が俊司の後ろにいる若い男に視線を送った。挑戦的なソレに、男はため息を付く。
「オジサン、俺、当て馬はごめんだぜ」
男はむっとした顔で、俊司を突き飛ばすように篤志の方へと押しやった。

気まずい雰囲気に下を向いたままの俊司に、篤志が問い掛けた。
「あの男と付き合ってるんですか?」
「まさか」
「じゃあ、何故?」
激しく問いただす篤志に、俊司は余計に天邪鬼な気分を抑え切れない。
「セックスの相手に理由なんか無いさ。『好みだから』に決まってるだろう?」
「主任!」
「呆れただろう。帰ってくれ、こんなところ見られて平静でいられる程、出来た人間でも無いんだ」
アパートの扉を開けて、そのまま躯を滑り込ませる。
「で? 僕が帰ったらどうするつもりです? また別な男を引っ張り込むんですか?」
だが、そのまま帰るだろうと思っていた篤志は、激昂したまま部屋の中へ入ってきた。
「そんなこと君には関係ないだろう。もう、帰ってくれ」
「嫌だ。帰りません」
俊司の拒絶をものともせず、篤志が俊司の腕を取る。
「樋川?」
「僕がどれだけ我慢していたと思ってるんですか? 帰りません!」
そのまま、腕の中へ俊司を抱きとめる仕草は、まるで逃がすまいとしているかの様だった。
「な、何ッ……ッ」
「僕じゃ駄目なんですか? 好みじゃ無い?」
あまりのことに、俊司の頭は真っ白だ。
「何を云ってるんだ? 帰りなさい。君を相手にする気は無い」
からかうにも程がある。俊司はキッパリと拒絶の言葉を放った。
「嫌です。他の男に抱かせるくらいなら、僕が抱きます」
「ひ、ひか、わ」
篤志はぐいと腰を押し付けてくる。そこには激しく主張している塊があった。
「ほら、判るでしょう? 僕、ずっと主任を抱きたかったんですよ。それに、相手にする気は無いなんて言葉じゃ帰れません」
「や、止めろ、ッ…」
ストレートに告白されて、俊司は半ばパニック状態だ。
「好きです、主任。主任のことが好きです。僕じゃ駄目ですか? 主任も僕なんか魅力が無いですか?」
必死ですがりつく視線に負けたと云うのは、俊司の中の言い訳にしか過ぎない。
「主任、今夜だけでもいいです。今夜だけ貴方を僕に下さい。それで思い残すことなんかありませんから」
「まるで死にに行くみたいだな」
ぼそりと呟いた俊司の台詞は、思ったそのまんまを口にしただけだったが、ぎくりと躯を強張らせた篤志に、はっとして顔を上げた。見上げた篤志の瞳には、何処か諦めたような彩がある。
「本気なのか? 止めてくれ。俺には君が思い詰めるような価値は無い。抱きたいなら抱いていい。樋川の思うようにしていいんだ。どうせ…」
何人もの男が抱いてきた躯なんだから――――
「聞きたくない! 僕だけのものです。僕だけの」
続く筈の言葉は、篤志に遮られた。
「約束してください。本当に思うようにしてもいいんなら、貴方の全部が僕のものだ。僕以外、誰も許さない」
俊司を抱き締めてくる篤志の腕は熱い。
その熱さに身をゆだねる様に、俊司は篤志におぼれた。


「貴方が誰かを思っているのは知っていました。最初に泊まったとき、貸してくれた着替えや、食器なんか、明らかにここは誰かがあなたと暮らしていた跡がある……誰なんです?」
久しぶりのセックスの後のけだるい躯をゆだねた俊司をきつく抱きしめたまま、篤志はかねてからの疑問を問いただす。俊司の全部、過去も全てが篤志のものだと確認したいらしい。
「暮らしていた訳じゃ無い。13年も付き合ったけど、一緒に暮らしたことなんか無かったよ。いつも隠れて、週末だけの恋人だった」
「その人は?」
「結婚したよ。親友のフリで周りを欺いていた報いかな。結婚式の招待状を破り捨てて、死んでしまいたかった……」
にがく苦しいだけの思い出。人生の三分の一以上を共に過ごした男は、あまりにあっさりと俊司を捨てた。
「最後に会ったのは、ラブホテルだったよ。散々抱いた後に『結婚することになった』ってさ。アイツ振り返りもしなかった」
真っ白になったまま、ふらふらと歩いてたどり着いた先は、通いなれた仁田のアパートだった。
部屋の前まで来ると、中から楽しそうな笑い声が聞こえた。仁田と女の二人分。見上げると雨に濡れた桜が散っている。まるで、泣いているかの様だと思った。


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